「右往左往企業」と「知のめぐりのよい企業」の違い3次元データ活用入門(1)(2/3 ページ)

» 2009年07月24日 00時00分 公開
[鳥谷浩志/ラティステクノロジー/,@IT MONOist]

「知のめぐりのよい組織」と「右往左往企業」

 東大ものづくり経営研究センター長の藤本隆弘教授は、強い製造業の特徴は、「知のめぐりのよい組織」であると指摘しています。設計情報を関連図門やサプライヤの間によどみなく流すこと、これを組織の能力として実現することが製造業の強みとなるのです。また、こういった能力を持つ企業は、しっかり現場に設計情報を流し、スムーズな情報交換を行っています。このように、賃金の高い日本には、進化する現場だけが残っていきます。

 また、メカ・エレキ・ソフトの同時設計を必要とするような高い難易度の製品開発こそ日本企業が生き残っていく道になるでしょう。藤本教授の言葉を借りれば、これが実現できない企業は、「右往左往企業」(注)となって、競争力を失っていくわけです。

 XVLでは、設計情報を流すとはいわず、あえて、「モノづくり情報」を流すといい換えています。なぜなら、XVLは製造現場が必要とするモノづくりのための情報を含んでいるからです。CADでは部品の形状や製品の構成情報、部品属性などを定義できます。この情報を含んだXVLをいまではほとんどのCADシステムから生成できます。一方、「モノづくり情報」としてのXVLは、このCADからの情報に加え、部品の組み付け手順や、イラスト作成のための分解手順、モノづくりのための部品属性など、より製造に近いデータを表現できるのです。


注:「右往左往企業」の定義は、2009年7月2日開催のRIETI政策シンポジウム「世界経済危機下のイノベーション−能力構築と制度改革のあり方−」での藤本隆宏氏の基調講演「ものづくり概念と産業競争力」におけるプレゼンテーション資料(PDF)に詳しい。資料では右往左往企業の対比として「能力構築企業」も定義されている。不況による景気悪化の影響はすべての企業で見られるが、両社の間ではその後の回復軌道が異なる。右往左往企業では、上向きの回復は難しく、能力構築企業ではV字形の回復となるのが特徴。氏によると、両社を分かつポイントは、1:国内拠点のモノづくり能力の再構築、2:戦略構築力の強化、3:適材適所のグローバル展開見直し、4:複雑化への対応であるという。


CADデータとXVLデータの関係

 それでは、CADとXVLの関係はどうなるのでしょうか。これを示したのが図4です。この図にあるように、CADでは部品形状と製品の構成情報を設計していきます。CADデータのままでは、データが巨大で誰もが手軽に扱うというわけにはいきません。そこで、軽量なXVLの出番となるわけです。

 一般的に、部品数が数千点を超えてくるとCADソフトウェアでは、だんだんと表示が遅くなってきます。データ量が1Gbyteを超えてくると、ついにはCADでは表示すらできなくなってしまいます。

 このような大規模データを表示し、自動的に全部品間の干渉を見つけるというのがXVLの第一の役割です。また大容量のデータを利用して製品全体を見て、デザインレビューを行うのもXVLの重要な役割の1つです。

図4 モノづくり情報の流れを作る 図4 モノづくり情報の流れを作る

 デザインレビューは、設計が完成する前に行われます。設計途中のデータをXVL変換し、干渉をチェックします。この結果に基づき、CAD側で形状を修正します。そして、再び最新のCADデータをXVL化して、干渉をチェックします。このプロセスを繰り返すことで、完全な設計データを仕上げていくのです。

 出来上がった設計情報が正式に承認されると、全社のデータベースにCADとXVLデータが格納されます。最終製品の生産技術部門では、XVLを利用して組み立て工程を検討します。このとき、XVLには工程情報が付加されます。工程情報には、作業指示のための3次元アニメーションを付加することもできます。多くの金型産業では、XVLデータ上に金型加工と組み付けに必要な情報を付加しています。こうして、CADから変換されたXVL情報は、設計情報から「モノづくり情報」へと進化するのです。この「モノづくり情報」編集という役割がXVLの2番目の役割になります。

 軽量な3次元データの最大のメリットは、多様な文書データに張り付けられることです。編集したXVLによる作業指示書をWeb上公開することもできます。また、マイクロソフトのExcelにデータを埋め込み、Excelの中で3次元アニメーションを再現するということもできます。

 XVLによる情報の見せ方の特徴は、3次元とそれに関連する情報が連動することです。製品を構成する部品情報をクリックすれば、それに対応する3次元形状の色を変えて対応を明示できるのです。このように、「モノづくり情報」を見える化して伝達するというのがXVLの3番目の役割です。

 これまで説明したように、CADが製品形状を設計するツールであるのに対し、XVLの役割は、1:CADデータが正しいのかを検証し、2:CADからの情報に製造情報を付加することで、「モノづくり情報」の編集を行い、3:それを見える化して関係者に伝達します。

 こうした工程が可能になるのは、XVLが軽量な3次元データであるからです。ファイル容量が小さく、ネット転送が高速なこと、低スペックのマシンでも軽快に表示できること、大容量のデータでも少ないメモリ使用量で高速に表示できること、などの特徴により、CADデータのままではできなかったことが可能になります。CADソフトウェアを持たない人でも設計情報、あるいは「モノづくり情報」にアクセス可能にしたのが、XVLという軽量3次元データなのです。

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