製造工程のコントロールの観点からいうと、材料(マテリアル)と指示(情報)の2つがそろっていないと製造作業は始められない。
生産において、原料に近い上流側の工程(作業)が、製品に近い下流側工程に対し、マテリアルの使用を指示し、その量とタイミングを通知する仕掛けをプッシュ型生産システムという。典型的には、上流工程が製造した半製品・中間品を下流工程に引渡して、「じゃ次にこれを加工してください」と指示を渡す方式である。
プッシュ型において途中で発生する半製品の仕掛かり在庫は、原則的にすべて下流工程の使用予定がひも付いている(これを私はフロー在庫と呼んで、作りだめのストックと区別している)。厳格なロット生産を行っている工場、例えば医薬品・化粧品・食品工場などでは、プッシュ型の指示をしている。これはロットのトレーサビリティが要求されるからである。製品に事故が起こった場合、どの製品ロットにはどの原料ロットが使われたかさかのぼって特定し、問題のあるロットを回収できるようにするためだ。
MRPの考え方も、マテリアル供給に関しては基本的にプッシュである。余裕を持って多めに材料を払い出し、残ったら現場在庫にして取っておく、などというやり方はMRPではしない。MRP IIの論理によって立つERPの生産管理システムが医薬品会社に広まったのには、この親和性が貢献しているのかもしれない。
逆に、下流側が上流側に、マテリアルの供給を指示し、その量とタイミングを通知する仕掛けをプル型生産システムという。製品在庫を基準数量だけストックして積んでおき、それが発注点を切ったら補充生産する方式は、その典型である。後工程引き取り・定数補充の「かんばん方式」も、プル型である。定量補充・定期補充などの補充も、プル型の供給である。
プル型では、現場のストック在庫を活用することが多い。現場のストックがなくなったら、その時点で補充する。製造指示の情報はマテリアルの供給とは独立に与えられる。かんばん方式では、指示は下流工程側から仕掛かりかんばんの形で与えられるのである。ストック在庫は特定の使用予定とはひも付けられていない点に注意してほしい。
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