今日の製造業において、完全な受注生産はまれである。サプライチェーンのどこかまでは、需要を見込んで途中まで製造し、ストック在庫を持っておく。そして受注が確定したら、そこからは受注生産になる。これは(前回も書いたが)バトンリレーのようなもので、見込みと実需がどこかで手をつないで品物を受け渡す必要がある。
問題はそのバトンリレーのポイントがどこなのか、分かりにくく、決めにくいという点にある。多くの工場では、この両者が無意識に混在している。それが製造工程のコントロールをやりにくくしている原因なのである。
私はその知人に対して、ボトルネック工程に対する一種の生産座席予約方式を提案した。生産座席予約とは、見込み需要で生産をスタートした個別の品目について、実需が確定するごとに動的に引き当てを掛けていく方式である。ただし、目の前にあるストック在庫の引き当てだけではなく(それなら簡単だが)、生産計画に基づいてこれから出来上がってくる品目の未来在庫についても、引き当てを行っていくのである(これを列車の座席予約のようなイメージで行うため、この名がある)。
それと同時に、製造ラインのバランスをリアルタイムに可視化する仕組みを提案した。これは、各工程が数時間で作業完了してしまうのに、製造実績数は日報で翌日にしか報告されない状況を改善する必要があったからである。ただし、ディスクリート型生産工場では、これを実現するにはMES(製造実行システム)が必要になる。
もちろん、この方法が常にすべてのケースの解決策になるわけではない。品目の数、工程の特性、需要の特性、顧客やサプライヤーとの力関係などで答えは毎回変わる。しかし、“受注生産という名前の見込み生産”を行っている企業では、その本質を見極めておかない限り、正しい答えには到達しないことを理解しておくべきである(なお、今回紹介した事例は、守秘義務の観点から実際のケースと少し変えてあります)(次回へ)。
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