今日の製造業が抱えている根本問題は「大量・見込み生産の体制を残したまま、多品種少量の受注生産に移行しようとしている」ことにある。生産計画を困難にするさまざまな要因を乗り越え、より良い生産計画を実現する方法を検証してみよう。
「そもそもね、需要予測なんて本当にわれわれ人間にとって可能なのか。私は常々哲学的な疑問を感じるんですよ」
経営コンサルタントの研究会の席上で、とある先輩はこう発言された。SCM(サプライチェーン・マネジメント)をテーマに考える会合だった。もう何年も前のことである。近くにいた別のコンサルタントも会話に加わって、こう付け加えた。「同感ですな。旧ソ連の崩壊はなぜ起きたか。それは計画経済の失敗ですよ。彼らは需要を年度別に予測しようとしたけれど、そんなことは不可能なんです」。
1990年代の終わりごろ、SCMソフト・ベンダとして華々しく登場したi2 Technologies社やManugistics社の売り物の1つが、需要予測であった。しかし、需要予測システムという商品には、どこか胡散臭(うさんくさ)さが付きまとうと感じた人も多かった。そんなに簡単に将来が読めるものか、先が読めるくらいだったら誰も苦労はしない、そんなつぶやきがあちこちから聞こえてきそうだ。
われわれは神サマではないのだから、需要なんて予測できない。従って、見込みで計画生産するというのは愚かな考えだ。需要に即応して出荷し、出荷した分だけ補充生産すべきである。必要なときに、必要なモノを、必要な量だけ作る――これが生産におけるジャスト・イン・タイムの究極の精神である。そう、主張される方も多い。講習会などで指導される現場改善コンサルタントからも、よく聞くせりふだ。
この主張は、自動車産業や、一部の電機産業、ならびにその周辺を支える部品業界においては、まったく正しい主張だろう。しかし、すべての産業において正しいかどうかは、検討の余地があると思う。例えば、あなたがビール工場の工場長で、来るべき夏のシーズンが暑夏か冷夏か気をもんでいるとき、「需要に即応して出荷した分だけ補充生産すればよい」とアドバイスされても、うれしいだろうか? あなたがアパレルメーカーの生産企画担当で、この冬は暖色系のセーターがはやるか黒グレー系が伸びるか迷っているとき、「売れた分だけ作ればいい」といわれて、それに従えるだろうか?
自動車や電子情報機器などは、もともと需要の季節変動があまりない商品である(むろんボーナスや新年度など、多少の販売タイミングはあるだろうが)。だから、商品の注文があったら在庫から引き当てて出荷し、その在庫レベルが減ったら「かんばん」などで生産指示を出す、という「後補充」型の生産システムが有効に機能するのである。
しかし、アパレルや飲料食品などのように、あるシーズンが過ぎたらぱったり需要がなくなるような季節性の強い商品では、単純なプル型生産(在庫補充型)方式は取れない。そんなことをしたら、繁忙期は欠品が多発し、閑散期は死に筋在庫の山になってしまう。だから、こうした企業では見込みに基づく計画生産を行っている。閑散期に需要を先読みしながら前倒し生産をして在庫を積み増し、繁忙期になると必死に売りさばく。だからこそ、計画担当者はどこでも悩んでいるのだ。
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