映画「不都合な真実」に代表される地球温暖化問題やガソリン価格の急激な高騰により、CO2排出量の少ないエコカーへの注目が高まっている。バイオ燃料利用やクリーンディーゼルなど内燃機関関連の技術改良も進んでいるが、CO2削減に最も貢献すると期待されているのが、ハイブリッド車、プラグインハイブリッド車、電気自動車、燃料電池車など、電気エネルギーとモーターを使って駆動する電動自動車である。
現在の自動車で、最も一般的に使用されている駆動源といえばガソリンエンジンやディーゼルエンジンなどの内燃機関であり、注目されているとはいえハイブリッド車をはじめとした電動自動車の生産台数は世界全体の1%程度である。しかし、自動車開発の歴史をひも解くと、電動自動車(もしくは電気自動車)への注目が集まった時期が今回を含めて3度ある。
1度目は、自動車開発の黎明期と言ってよい19世紀末である。電動自動車の駆動源である電池が1800年、モーターが1831年に発明され、実用的な電気自動車が1873年に開発された。一方、ガソリンエンジンの発明は1876年で、ダイムラーとベンツがガソリンエンジン自動車を開発したのが1885年である。ガソリンエンジンの騒音、振動、排出ガスなどの問題を持たない電気自動車は、1910年ごろまでは販売台数でも優位な地位を築いていた。しかし、第1次大戦中から内燃機関の技術開発が急速に発展したことで、各社とも生産を取り止めた。
2度目は、1990年に米カリフォルニア州が制定した無公害車に関する規制「ZEV(Zero Emission Vehicle)法」がきっかけとなった、大手自動車メーカーによる電気自動車の開発競争である。1996年には、米General Motors社(GM)の「EV-1」、トヨタ自動車の「RAV4- EV」、本田技研工業の「EV-Plus」などがリース販売形式を中心に市場投入されたが、結局市場を形成するには至らなかった。特に、2003年に販売を打ち切ったEV-1については、砂漠の真ん中に集めて廃車処分にされている映像により、市場に受け入れられる電気自動車開発の難しさを印象付けた。
これまで2度の電動自動車ブームにおいて、最終的に市場化できなかった理由は明確だ。自動車という製品に求める航続距離に対して電池性能が不足していたからである。2度目の電動自動車ブームでは、2次電池としてニッケル水素電池を採用し、EV-1、RAV4-EV、EV-Plusとも満充電からの航続距離は200kmを超えていたものの、電池の重量と価格が足かせとなった。トヨタのハイブリッド車「プリウス」も、1997年の初代モデル発売時には1台あたり50万円の赤字が出ると言われており、その赤字の大部分を2次電池であるニッケル水素電池のコストが占めていたという。
しかし、トヨタの環境に対するブランドイメージ向上という形でプリウスは立ち上げに成功し、その環境性能によりハイブリッド車の市場価値も認められるようになった。自動車メーカー各社は、第2次電動自動車ブームの終焉とともに中断していた電動自動車に関する技術開発を再開。1999年にはホンダの「インサイト」が登場し、米国メーカーからも米Ford Motor社が2004年に「Escape Hybrid」を投入するなど、ハイブリッド車の市場規模は着実に拡大している。
現在の第3次電動自動車ブームでは、ハイブリッド車への高い評価をベースにして、電気モーターだけで一定の距離を走行できるプラグインハイブリッド車や電気自動車の実用化への期待が高まっている。その理由として挙げられるのが、ニッケル水素電池と比べて、エネルギー密度や出力密度などのはるかに高いリチウムイオン電池の車載用途開発の急速な進展である。2006年に起こったノート型パソコン用リチウムイオン電池の発火問題によりトーンダウンした時期もあったが、2008年春以降自動車メーカーと電機メーカーの合弁会社を中心に、次々と量産計画が発表されている。
例えば、2009年中に発売予定のハイブリッド車については、Daimler社の「ベンツS400 BlueHYBRID」だけがリチウムイオン電池を搭載するが、トヨタの新型プリウス、ホンダのインサイト、Volkswagenグループのハイブリッド車などは、ニッケル水素電池を採用する予定だ。しかし、2009年後半から先行量産を始める三菱自動車の「i MiEV」、富士重工業の「プラグインステラ」、Daimler社の「smart ed」などの電気自動車から、2010年以降に計画されている電動自動車の多くがリチウムイオン電池を採用することを計画している(図1)。
第1次ブームの鉛電池、第2次ブームのニッケル水素電池では、電動自動車のブームを市場に定着させることはできなかった。しかし、各国の規制でCO2排出量の少ない自動車開発が求められているという周辺環境と車載リチウムイオン電池の登場により、電動自動車が自動車市場の一角を担うことは確実な情勢にある。
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