製缶構造と板金構造のイイトコドリでコストダウン事例で知るVA・VEのコストダウン手法ABC(1)(2/2 ページ)

» 2008年04月25日 00時00分 公開
[舩倉 満夫/フナックス・エンジニアリング,@IT MONOist]
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【設計課題2】構造全体でVA・VEする

 【設計課題2】は、標準的なアングルを使用した製缶構造です。今回は構造全体にそれほど剛性が要求されない場合を想定します。製缶加工の形状を板金加工で同等の形状を構築しながら、かつ高品質を維持し、さらに加工工程を簡素化し工数削減することによりコストダウンを行っていく事例を紹介します(図3)。

図3 【課題2】の筐体(製缶構造)

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 作業台を兼ねた制御BOXを設計するときなど、板金形状だけだと強度に問題がある場合、小さなアングルを組み合わせた製缶構造とし、カバーを張り付ける場合が多々あります。【設計課題2】の筐体もその一例です。

強度に見合った形状を構築する

 制御BOXなどの構造は、アングルで構成することが多くなっています。その理由とは、既存の物と同等形状の物を設計するときには、既存の物を参照にするほうが楽、あるいは安心――「右へならえ」方式の考え方が設計現場で多いからではないかと筆者は思っています。それにより、最適設計をおろそかにしてオーバースペック(頑丈になり過ぎ)といった問題が起こり得ます。

 今回は、アングルを使用した製缶構造から、板金加工での同等形状構築に変更することによるVA・VEでコストダウンを図っていきます(図4)。

図4 【課題2】の筐体、VA・VE後

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 まず最初に板金でBOX形状を製作します。次に、強度を補強するために、各角部の内側にL型プレートを溶接(またはリベットで固定)し、角パイプの形状を形成します。ごく標準的な強度なら、L型プレートの補強で十分ですが、もう少し強度が必要な場合は曲げを増やしてみます。

One Point 板金加工

もう1つの着眼点は、工数の削減、高技能を要する加工から、標準的な加工にすることでコストダウン、品質アップ、短納期化を図ることです。板金が安易な加工方法ということではありません。NCタレパンやNCベンダによる加工で、安定した形状が実現します。



鋼材と板金

 それほど剛性の要求されない形状の場合なら、板金加工による曲げ構造をうまく利用して強度を出す設計を取り入れることで、またさらに最適設計のバリエーションが広がります。

 下の、製缶加工で使用する鋼材形状と、それらに相当する可能性のある板金加工形状を参考にしてください。

製缶構造で使用する鋼材の形状

鋼材のバリエーション
  • アングルの特徴:角の内側にRが付いているため、単なるL型プレートより強度があります。
  • チャンネルの特徴:内側のRと、上下の板の内側が厚くなっているため、アングルよりも強度が確保できます。ただし、コの字が外に開いているので、寸法精度を出すことが難しい面もあります。
  • 角パイプの特徴:パイプ状であることと、角がR形状のため、強度は板厚の4倍以上となります。頑丈さを要求される筐体向けです。

強度UPするため、板金に曲げ加工する

プレートの曲げ加工バリエーション
  • L型プレートの特徴:平板から曲げを1つ入れることにより、梁ができ、強度が増します(アングルに相当)。
  • コの字型プレートの特徴:L型プレートよりも強度を付けたい場合は、もう1回曲げを入れてコの字型にします。カバー類などに有効です(チャンネルに相当)。
  • 抱き合わせプレートの特徴:コの字型プレート同士を抱き合わせて溶接を行うことにより、角パイプと同等の形状になり、強度を増すことができます(角パイプに相当)。

VA・VEとティアダウンの違い

VE・VEの特徴

  • 要求仕様に対し、部品やユニットの最適設計を考えます(材質、形状、加工方法、加工工程、表面処理等) 。
  • 中ロット、小ロット生産に向いています。

ティアダウンの特徴

  • 要求仕様に対し、現状の部品やユニットの“品質をどれだけ削り落とせるか?”を考えます(公差、形状、材質、表面処理等)。
  • 大ロット生産に向いています。

 大量生産方法の商品だと、開発に掛ける人や物、時間が多いため、販売する時点では、あらゆる面の問題点が解決されています。

 しかし中量生産、少量生産においては、開発に掛ける人や物、時間は、大量生産と比較すれば少ないでしょう。開発段階では、品質や機能面への解決を重点としています。つまり、生産を行いながら価格改善を行うことが多いのです。そのような意味で、VA、VEは中量、少量生産に向いた手法であるといえます。

2つのポイント

ポイント1「最適な加工法を選択する」

 VA(価値解析)には「この方法でいこう!」といった確固たる定義がないというのが難点であると思います。

 今回のテーマ「製缶構造と板金構造を最適化する」ということにおいても、【設計課題1】では製缶構造の中に板金を取り入れていくという方法を取り、【設計課題2】では製缶構造から板金構造への転換ということを説明しました。この2つの方法は、互いに相いれないものです。

 ここで考えなければならないことは「この形状に関しては1つの加工方法しかないという固定観念を持たない」ということです。柔軟な発想で最適加工方法を選択するということを常に考えることが、より良い設計につながっていくのではないでしょうか。

ポイント2「会社の文化が足かせに」

 それぞれの会社には長い時間をかけて構築してきた品質があります。これを俗に“会社の文化”といいます。

 しかし、この“会社の文化”が足かせとなり、自由な設計を妨げている場合も多くあります。今回のテーマ「製缶構造と板金構造の融合」は、その打開案の1つだと考えてもらえればと思います。

 次回は、要求仕様に基づいて適切な切削加工を見極めつつ、部品構成を見直すことによるコストダウン事例を紹介します。(次回に続く)

Profile

舩倉 満夫(ふなくら みつお)

製造業に生きて40年、省力化機器製造会社、プレス金型製造会社、半導体製造装置、金型製造会社、ワイヤハーネス用全自動端子圧着機製造会社と経験し、運良く工場内でメンテナンス、機械加工、組み込み、設計、品質管理、生産管理、購買部とものづくりのあらゆる工程を経験。この特異な経験と知識を生かした最適加工および工法により、数々の設計改善・コストダウンを実施してきた。さらにビジネスへと展開するべく、2001年、フナックス・エンジニアリングを設立し、現在に至る。モットーは「仕様に基づいた品質の追求」。



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