自分の勝手な思い込みで鉄鋼を採用していない? 「アルミやプラスチックに変えると高くなる」というのも思い込みなのだ
今回は、“材料の選択”にメスを入れてみましょう。このような非常に基本的な部分にあらためて注目することによって、普段は気が付かない意外なことが見えるものです。
強度、剛性、持久性、耐久性、耐蝕性などが最も要求されるものは金型です。耐久性を考慮するならば、基本的に、炭素鋼(S45C)、工具鋼(SK、SKS、SKD、SKH)、超鋼材といった鉄鋼材料が浮かび上がってくるでしょう。
それから、ここ最近において、重量を考慮した材料選択をしているものといえば、車や家電、パソコンなどでしょう。家電なら、部品を軽量化することによる扱いやすさを考慮します。車であれば、燃費が良くなるように部品を軽量化します。ちなみに一昔前は、全体的に、重厚な構えで持久性を重視した設計が多かったように筆者は思います。
また最近では、見た目の形状や色でも、“癒し系な感じ”を重要視したりします。そのような人の感覚的な理由もまた、材料選択の大事な根拠となります。“癒し系な感じ”というのは、商品の企画コンセプトです。
このように、さまざまな根拠で材料選択がなされます。あなたの設計したその部品の材料は、どういった根拠でもって選択されたのでしょうか。今回は、鉄鋼で作られた部品を例に、材料選択の基本を解説していきます。
まず、「その部品やユニットが、軽量化によって生まれるひずみ(強度不足、耐久性不足などによる)に耐えられるか?」ということになります。
そのうえで、以下の3つのポイントをセットで検討します。
1については、材料の比重(密度)を考慮します。鉄鋼を基準に考えると、比重の低いものといえばアルミやプラスチックなどです。ほかにも選択肢はたくさんあります。
2では、これも鉄鋼を基準に考えていくと上記同様、アルミやプラスチックが考えられます。鉄鋼よりも軟らかい、つまり切削性が良いので加工時間が短縮できます。
最後の3は、鉄鋼を基準に考えた場合、アルミやプラスチックのkg単位の材料単価は高くなります。このせいなのか、あるいは昔から鉄鋼の部品が多かったからなのか、産業機械の設計者の中には、材質を鉄鋼からアルミやプラスチックへ変更することに消極的な人がかなりいます。
鉄鋼は、kg単位の価格が安いです。しかし比重が高く、かつ硬いので、加工されれば高くなるのです。材料は、鉄鋼もプラスチックも(射出成形以外で)たいてい4面あるいは5面加工された状態で業者から購入します。
下記は、kg単位の材料単価ではなく、板状に加工された材料の価格です。
寸法が100X100X10である板材の価格例
S50C(炭素鋼)からA5052S(アルミ)に変更する場合だと、同形状であるなら材料変更を行ってもコストダウン効果があまり見込めないので、メリットはないということになります。POM(ポリアセタール)だと、材料費(1kg当たりの材料単価ではなく)は半額近くまで下がります。
POMは、1kg換算の材料単価だとS50CやA5052Sと比べると高価となります。ただ、POMの比重はS50Cの6分の1弱です(図1)。そのうえ板状に加工することを考慮すると、当然ですが、金属類よりはプラスチックの方がはるかに削りやすい(軟らかい)ので、加工工数が少なくて済みます。それにS50CとA5052Sでは6面加工ですが、POMだと4面加工です。よって、トータルで格段に安くなるというわけです。
さらにこの材料を使い部品を加工していく過程でも、同様の考え方となります。
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