実際にドラム・バッファー・ロープをどのようにして生産ラインに適用するかを検討してゆきましょう。ドラム・バッファー・ロープを工場に適用するためには「5つの重点化ステップ」を実践していきます(図5)。
5ステップの最初は、ボトルネック工程(ハービー少年)を探すことから始めます。ボトルネック工程は能力の一番低い工程、設備のことで、TOCでは生産性とリードタイムを決定付けている最も重要な工程と考えます。
正確にボトルネック工程を見つけるための第一歩は、各工程の正確な能力を把握することです。通常は実際の処理能力を基本に考え、生産能力に対して負荷の比率が100%を超え、しかも値が一番大きい工程を制約条件とします。
負荷と能力のデータが整理されていれば、正確に制約条件を識別することが可能ですが、多品種少量生産の環境などでは正確に計算できない場合もあります。この場合、簡便な方法として、ボトルネック工程の前には仕掛かりが滞留する特性を利用して、実際の仕掛かり量で判断してもよいのです。しかし仕掛かり量は工程設計上のバランスや前後工程の信頼性で増減するため、必ず現場の管理監督者の意見を参考にして、能力的な側面も検討したうえでボトルネック工程を決定するようにします。
また、ボトルネック工程は必ずしも1つとは限りません。負荷がおおむね80%を超える工程は、バッファーによる保護を必要としている場合が多く、この保護を必要とする工程をそれぞれボトルネック工程とします。ただし、その場合にメインのボトルネック工程を1つに絞り、それ以外は主制約工程に従属するサブ・ボトルネック工程と考えます。
第2ステップでは、ボトルネック工程の生産能力を最後の一滴まで余すことなく使い切り、隠れた生産能力を引き出すことを実践します。その根底には、ネック工程といえどもさまざまな要因で現実には能力を100%発揮しておらず、ボトルネック工程が休止することは、サプライチェーン全体が産出するキャッシュを損失させるという事実があります。このステップでは従来から適用されてきた改善手法をボトルネック工程に集中的に展開します。
徹底活用を行うに当たっては、もう一段踏み込んだボトルネック工程の詳細な稼働調査が必要になります。これによって給材待ち、試運転、調整、空運転などスループットに結び付いていない部分からすぐに改善を行います。
この第2ステップは、われわれが通常行っている改善活動をボトルネック工程に集中的に適用することにほかならず、従来のIE、QC、PM、5S活動などの生産性向上プログラムを上手に併用することで、さらに大きな効果が実現できるのです。
第3ステップでは、工程内の仕掛かりを最小限にして、生産スピードを向上させるために先頭の資材投入をボトルネック工程の生産スピードに同期させてコントロールします。さらに、さまざまな生産の揺らぎから、ボトルネック工程を守るために計画的な在庫(バッファー)を設置し、それ以外の工程は稼働率を高めるという考え方をやめ、仕掛かり在庫を持たないようにします。
このようにしてボトルネック工程と先頭の投入工程だけを重点的に管理すれば、全工程の能力をバランスさせることなしに、生産性向上と仕掛かりの最小化を実現できます。バッファーの仕掛かり量の決め方は、最初から難しい解析や予測を行うのではなく、まず現状の仕掛かりの推移を分析します。過去3カ月程度の仕掛かり推移から若干余裕を持って「この程度あれば大丈夫」という値を設定しバッファー管理を始めます。その後は、日単位のバッファーコントロールを行い余剰分を段階的に削減してゆくのです。
そして第4ステップの段階になっても依然としてボトルネック工程が変動しなければ、初めて投資を伴った改善や人の採用を実施し、ボトルネック工程の能力を向上させるのです。この継続的改善ステップの実践が、多くのサプライチェーンソフトが採用するTOCの生産スケジューリング理論であるドラム・バッファー・ロープ(DBR)なのです。
こうして活動を進めてゆけば、必ず第1回「制約条件に着目した業績改善手法、TOCとは?」で説明した2つの問題、すなわち「方針制約」による活動の停滞と、生産能力が需要を上回った状態である「市場制約」が大きな障害になります。従って収益を最大限にするためには、生産部門の改善と並行して、方針制約の解消と市場拡大の手法が何としても必要ということなのです。このため最後の第5ステップでは、制約条件がどこに変化したかを注意深く見極めたうえで、第1ステップに戻ります。
一見非常にシンプルな考え方ですが、実際にTOC−DBRを導入した企業の多くはこの5ステップの実践によって業務費用や投資を増やさずに、30%以上の生産性向上と在庫削減を1年程度で実現しています。われわれの実績によれば、DBR導入による平均リードタイム削減効果は40%程度、生産性向上効果は18%程度と確認されています。
しかし、これで満足してもらっては困ります。なぜならば、われわれの目標は高い納期順守率を通じて、顧客満足を高めてゆく仕組みを構築することです。残念ながらTOC−DBRを実践するだけで、この仕組みに到達することはできません。
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次回はこのDBRをどのようにして、皆さんの工場に導入するかについてのポイントと低い在庫レベルで高い納期順守率を実現する「在庫補充方式」をお話しします。
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