モノづくり企業が継続的に利益を創出することを“ゴール”に定め、具体的な方法論を提供するTOC(制約条件の理論)について、初学者向けに基本的な思想、用語、理論などをコンパクトに解説する。
今回は、前回「『2つの勘違い』は工程のバランス追求が発生源」で紹介したDBR(ドラム・バッファー・ロープ)の仕組みを、どのように顧客満足を高めてゆく仕組みへつなげるか、DBR導入のポイントと併せて紹介しましょう。製造工程にDBRの仕組みを導入することで、著しい製造リードタイム短縮と生産能力向上を実現できます。次にこの短くなったリードタイムと著しく高まった生産能力をどのように顧客満足に結び付け、もうけを作り出してゆくかを考えます。
前回の記事で、工場にDBRの仕組みを導入しただけでは、高い納期順守率や欠品ゼロを実現できないとお話ししました。なぜならば今日、顧客の要求納期は非常に短く、工場のリードタイム短縮活動で顧客の要求納期よりも短い生産リードタイムを実現するのは困難であり、現実的には何らかの在庫を持って顧客からの注文に対応せざるを得ません。もしそうならば顧客の納期に対応するために、物流方法は工場倉庫なり流通段階に存在する在庫を補填する仕組みになります。
この在庫補填型の生産・物流では、工場の製造リードタイムの長短は欠品や納期遅れにはそう大きな影響を与えません。一般的に、
在庫補填期間=製造リードタイム
と考えがちですが、実はどれだけのアイテムを生産できるかという生産頻度が大きな鍵を握っているのです。販売ラインアップされたアイテムが1万種類あって、そのすべてを売れただけ毎週生産できれば在庫補填期間は、
1週間(週1度生産)+製造リードタイム
となり、在庫はそう大きな問題を引き起こしません。しかし実際には1万種類を毎週作るのは不可能ですから、切れそうになったものだけをある固まり(ロット)でまとめて補充することになります。1日100アイテムを作っていたのでは、1万アイテム作るのに100日かかります。すると基本的な製造ロットサイズは、少なくとも次回の製造順番が来るまでの、
100日分+製造リードタイム
になります(図1)。これでは欠品や納期遅れがなくならないはずですね。しかし、だからといって工場はそう簡単に生産ロットサイズを小さくできません。もし、そんなことをしたら品種切り替え(段取り替え)が増え過ぎて、生産性がガタガタになってしまうからです。
大きなロットサイズで生産が行われている企業では、欠品・納期遅れと過剰在庫は例外なくセットで存在します。すべてを在庫させようとすると、かえって欠品を増やす結果になり、在庫の増大と外注依存で会社のキャッシュフローは大きく損なわれます。
ここは思い切って在庫政策を見直すことが問題解決の早道になります。要するに、フルライン戦略が利益につながらない過剰出費を呼んでいるわけですから、工場の生産ポリシー、代理店販売店への出荷納期基準を見直し、仕組みを再構築する方が早いのです。これを支えるのがDBRをベースに構築されるTOC物流管理(ディストリビューション・システム)なのです。
工場の多くのスタッフは、自分たちが生産したものは100%売れていると信じています。しかし実態はどうでしょうか?
これまで見てきたように顧客、営業のそれぞれの思惑による「サバ読み」や「勘違い」で、当面必要のない製品にまで生産能力を割り当てています。また生産ロットサイズなどは、自社内の方針制約によって、当面在庫になることが分かっていても生産している場合もあります。
図2は自社工場で生産された品目が、顧客の業務で実際に使用されるまでの日数の分布とパレート(累積)を表しています。工場から出荷された製品は顧客に納入されても、さまざまな理由ですぐに使われるとは限りません。実は自社で生産された品目が下流の顧客先で実際に消費されるまでの期間には大きなばらつきがあり、また設定されている納期とは必ずしも一致しないのです。これを本当に顧客が使う分だけ生産する仕組みに変更できれば、DBR導入で向上した分と合わせて、工場の生産能力には多くの余裕ができるのです。
顧客の「真の納期」が分かれば、自社の生産スケジュールを顧客の需要に合わせることで、
ができるようになります。需要は顧客が振っているのではありません。サプライチェーンの需要振幅の大部分は「サバ」がもたらすのです。顧客の実際の消費に合わせて生産することで、「必要なものだけ作る」を徹底できます。そしてこれまで営業、工場、顧客それぞれがサバとして使っていた個々の安全余裕を、バッファーとして集中させることで、全体の変動性(揺らぎ)や不安定性(マーフィーやノイズ)(注1)に対する全体的な予防メカニズムとして使うようにすれば、さまざまな変動に対応できる柔軟な仕組みが構築できるのです。
注1:マーフィー マーフィーの法則は本来「If anything can go wrong, it will.」(失敗する可能性のあるものは、失敗する)ですが、TOCでは「起きてほしくないトラブル」の総称として使います。
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