これまでA社、B社、C社の3社について、設計者向けCAEの導入と定着に際して、どのような場面において課題を抱え、そしてその課題に対してどのような対策を立てて解決を目指していったのかを紹介しました。
それぞれの状況によって発生した課題や解決策がまちまちだったように、設計者向けCAEの普及と定着にはさまざまな課題があります。綿密に準備をして導入したつもりであっても、今回挙げた3つの事例のように思いがけないところから問題点が発生することも十分あり得るわけです。
CAE導入の推進にはさまざまな課題が複雑に絡み合っていて、決して単純ではありません。なので、設計者向けCAEを導入・定着させるためには、それらの課題のどれか1つだけを解決すればいいわけではなく、全体的に解決していく必要があるのでしょう。これがCAEの導入と定着を難しくしている原因かもしれません。
設計者向けCAEを定着させ、企業にメリットをもたらすことは容易ではありません。また、これをやれば必ず成功するという法則もありません。それぞれの企業文化や組織体制に合わせて「CAEをどのように利用をしていくか」を決めることが必要です。
そのうえで、目的に見合ったツールの選定、解析部門や生産部門との連携、社内教育体制の確立、設計者が行う解析に対する評価指標、設計者へのフィードバック体制などをしっかり管理していく必要があります。
これらは、設計部門だけで対応するのは難しく、また時間がかかるものです。しかし定着に成功したときのメリットは、苦労した分が十分報われるぐらいに大きいのではないでしょうか。ぜひ、取り組んでみてくださればと思います。
設計者向けCAEの導入は、品質向上や開発時間の短縮、そしてコスト削減といった、さまざまなメリットをもたらします。しかしその導入と定着は非常に難しいということを、いくつかの事例を基に紹介しました。これらの事例から、定着に向けた多少のヒントは得られるのかもしれません。ただしこれらは、明確な解決方法ではなく、設計者向けCAEの導入と定着を促すであろう状況・条件の、まさに「一端」を述べたにすぎません。
設計者向けCAEの導入と定着のためには、各部署のメンバーが他人任せではなく自分たちの問題としてしっかりと認識し、主体性を持って取り組んでいく必要があります。企業では当然1社1社が異なる体制を取っているわけですから、そのような会社の事情に合わせて模索する必要もあります。
複雑な要因が絡み合うことからも、どんな場合も「絶対にうまくいく」といえる方法は存在しないことが、この問題の根底にあるのかもしれません。唯一はっきりしていることは「導入する企業と社員が一丸となって意識を高めて取り組むこと」の重要さなのかもしれません。
新留 正俊(にいどめ まさとし)
1971年埼玉県生まれ。2006年にCAEソフトウェアの代理店であるサイバネットシステムに入社。構造・伝熱等の設計者向けCAEを中心に、さまざまなCAEツールの国内マーケティング担当として現在活動中。
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