長い不況を抜け、ようやく明るい兆しが見えてきたニッポンの製造業。しかし、国際競争の激化や消費者ニーズの多様化により、「作れば売れる」時代は過去のものとなった。いかに売れるものを素早く市場投入するかが勝負の現在、PLMという視点から製造業のあるべき姿を考察する。
製造業に従事する人であれば、PLMというキーワードをご存じだと思う。でも、このPLM。解釈が人それぞれである。そこで、@ITの用語辞典で調べてみた。
企画、開発から設計、製造、生産、出荷後のサポートやメンテナンス、生産・販売の打ち切りまで、製品のすべての過程を一貫して包括的に管理することで、開発期間の短縮、生産の効率化、そして市場の求める製品を適切な時期に市場投入することを目指す経営コンセプト。……中略……、具体的なIT製品・ソリューションとしてのPLMは、PDMから進化してきたものも多い。(@IT 情報マネジメント用語事典から引用)
PLMの本意とは何か? 設計製造に関する展示会やイベント、記事を見るとおよそ3つの考え方に集約されるようである。
筆者としては3つのどれがPLMであっても構わない。ただ、1つだけ、先に答えをいっておこう。
PLMとは製品スペックつまり仕様の状態や情報をマネジメントすることである
ここだけはこだわりたい。
さて、今回は、PLMの1つといわれている3次元CAD導入の実態について触れていきたい。先般、デジタル改革事例ということで、マツダやリコーのデジタル情報活用による設計プロセス改革の事例発表を聞く機会があった。両社とも3次元情報を有効活用し、テスト工数の削減、試作費の削減や部門間連携の強化など多くの効果を出していた。非常に有意義な講演だった。
ただし、具体的にこれらがPLMか? というと、どちらかといえばCAD/CAE導入のノウハウを中心とした内容であった。確かに3次元CADの導入は重要だが、その裏でもっと大きな業務の変革や人の意識変革があったはずである。3次元CADはあくまでも1つのツールだ。これを導入して大きな効果を出した両社と、3次元CAD化に多額の投資を行ったが効果が出なかったほかのメーカーとの差は何なのか。
ある3次元データ活用に関するアンケート結果(注1)によると、製品のQCDの観点では、Q(品質)とD(開発期間)の観点では、約6割以上の人が向上したと答えた。これは、CAEの解析やテストなどを設計段階で検討するため品質が向上し、CAM連携や試作削減などでD(開発期間)は短縮されるのだろう。一方で、C(コスト)削減効果があったとの回答は約2割ほど。3次元データにより試作費は削減できるものの、製造原価は部品選定、最適生産場所検討、最適物流などに依存するため、3次元データで解決できる部分は非常に少ない状況である。3次元データに関して、総論としては効果があると認識はしているものの、業務工数や製品のQCD向上という各論になると、良いことだらけではないということだ。ここからも分かるように、3次元データに何を期待し、何をあきらめるか。そして、製品価値(QCD)向上のためには、3次元データをどのように活用し、効果を出すのか。
注1:「数字で見る現場 【3次元データ活用の実態】」『日経ものづくり』2007年7月
それを解く鍵は、スペックをマネジメントするということに主眼を置いたPLM経営とその情報基盤構築にあると思う。PLMは、本質的にPDM+3次元CAD導入だけの議論ではない。そのツールを有効活用するためには、製品開発の考え方、部門間連携の在り方を変革する必要がある。
世界市場を見据えたモノづくりを推進するには、エンジニアリングチェーン改革が必須。世界同時開発を実現するモノづくり方法論の解説記事を「グローバル設計・開発」コーナーに集約しています。併せてご参照ください。
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