このプロセス改善の取り組みと同時にスタートした1つのプロジェクトも終わるころ、実態を知り、自分たちの実力を認識し、そのデータを次のプロジェクト計画に生かす活動は、ゆっくりと効果を出し始めました。
1年間彼らがやってきたことは、実績を入力し続けることでした。その過程で、粒度がばらばらであったWBS(Work Breakdown Structure:作業分割構成/作業分解図)を改善したり、工程の抜けを防ぐためのチェック方法など、付随する工夫も少しずつ試みてきました。そして、これらの工夫は事実を測定することから始まったのです。
さて、この開発現場が、一歩を踏み出せた理由は何でしょう。
まず、リーダーの頑張りを挙げることができるでしょう。リーダーが自ら考え、工夫し、メンバーを引っ張っていったことです。ここに至るまでにリーダー自身は、工学的なモデルや、開発スタイルについても独自で情報を収集していました。このことが、現場にマッチした改善方法を見つける助けになっていました。
もちろんメンバーも頑張りました。プロセス改善の活動は、現場が動かなければ始まりません。しかも、一朝一夕で効果が出るものでもありません。活動の開始初期には負荷が増えますし、我慢して続けなければならない時期があります。それを乗り越えないと、成果にはつながらないといってもいいでしょう。少なくとも、私の知る範囲では。最初の効果を手にするまで、続けられるモチベーションを維持できたことは一歩のための大きな力となりました。
それから、工程の漏れや作業の遅れを「測定」しようとしたこと。普通に考えれば失敗やミスを表面化させることになりますが、それを自分たちのいまの実力であると認め、次に生かすためのデータとして測定したことです。このちょっとした勇気が、冷静で正確なデータ収集をスムーズにしたのでしょう。そして、自分たちが測定している、分析している、という意識によって、この活動は「やらされている」のではなく、「自分たちのもの」になり、自然とモチベーションにつながりました。
そして現場がプロセス改善の活動をするためには、上層部の理解は欠かせません。実はモチベーションの維持にとっても、これは重要なファクターといえます。上層部に理解を得られないからといって、水面下で進めるのは不可能です。組織として不可能なだけでなく、活動する本人たちの気持ちのうえでも、継続することはできませんから。現場主導で、プロセス改善を行いたいと考えている方の中には、この辺りに壁を感じている方がいるかもしれません。
今回は、ある小さな開発現場のプロセス改善の取り組みをご紹介しました。何も管理していないといっても過言ではない、何とかしたいけれど、何をしていいか分からないという現場の、初めの一歩です。
「小さなことからコツコツと」
「継続は力なり」
ではまた、次回をお楽しみに(次回に続く)。
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