最近は、組み込み用途でも高信頼性が求められてくるケースが増えてきたという。例えば携帯電話の場合、単なる電話(フィーチャーホン)ではそれほど難しい話ではないが、最近の高機能携帯電話(スマートホン)では住所録やスケジュール表だけでなく、音楽や写真、動画などを大量にハンドリングするニーズが出てきている。さらに一歩進み、おサイフケータイに代表される「シグネチャホン」では、決裁情報や課金情報のトランザクション保証が必須となる。こうしたマーケットにおいては、Linterの持つ小さなフットプリントや高信頼性が大きく評価されるという。
同様にLinterが採用されているケースでは、ITS関係やデジタル家電などが多い。公開できる事例では、大和製衡の「トラックスケール」というトラックの重量や軸重を量る測定機器にLinter Embeddedが採用されているほか、カーナビやクルマの決裁関係(ETC関連と想像されるが未公開)などでも採用事例が多いという。デジタル家電系では、やはり楽曲の管理などにLinter Embeddedが多く採用されているそうである。このほかにもビル管理(空調や照明などの集中管理)などにも採用事例があるという。
ちなみにLinter自体は、最近流行の分散DBなどエンタープライズ系の機能は持っていないが、こうした用途ではバックエンドに他社の大規模DBを使い、フロントエンドにLinterを使うという形で対応できるとしている。Linterのレプリケーション機能によりデータの同期を取るのは容易であり、例えば携帯機器とサーバのつなぎにLinterを使うというケースもあるそうだ。
適用するシーンが異なれば、当然要求される項目も変わってくる。「Linter Embeddedを使う」といっても、実際にはカスタマイズやチューニングが必要になる。「EmbeddedはEnterpriseから機能の削り込みを行ったもの」と前述したが、その削り込みとは、「ソースレベルで不要な機能を省く」というほかに例のない方法で行う。当然この作業はクライアントレベルでは不可能であるが、逆にいえばLinterの内部まで理解した人間による的確なカスタマイズやチューニングが可能になるわけだ。
汎用のカスタマイズやプレオーダーの構成が存在しないのは、プラットフォームが多岐にわたることも関係している。Linter Embeddedの製品仕様ページを見れば分かるとおり、サポートOSは非常に多く、さらにBREWへの移植も始まっている。組み込みの場合、OSとCPUが一意に対応しないことや汎用のファイルシステムがないこともあり、顧客がすべてのカスタマイズを行うのは到底不可能という事情もある。「経験則でいうと、いまだかつて組み込み向けにLinter Embeddedをそのままで使われたお客さまは1社もない」(鎌田氏)という辺りに、組み込み分野におけるアプリ/ミドルウェア事情が表れている。
とはいえ、このままではブライセンとユーザーのどちらにとっても負荷が大きい。そこで、最近同社はリファレンス・プラットフォームの拡充を図っているという。LinuxならArmadillo。Windows CE 5.0は日立超LSIシステムズのSolution Engine。μITRONではミスポのNORTiをそれぞれリファレンス・プラットフォームとし、より早い開発の立ち上げを狙っているという。
これに加えて、ブライセンでは教育にも力を入れている。2004年2月からLinterの基礎編セミナーを、2005年8月からはチューニングまで含んだ中級編のセミナーを毎月実施しており、場合によってはオンサイトトレーニングも考えるという。また、近いうちにLinterの資格制度も始めるとの話だ。
ちなみにブライセンとRelex社の役割分担は、ブライセンがFirst Line Supportやトレーニングなどを担い、改造が入る場合はRelex社の共同作業になるという。ブライセンは2005年1月からの10年間、アジア地区におけるLinterの独占代理店契約を結んでおり、今後は日本だけでなく中国、韓国、台湾といった地域への展開も考えているという。これを支えるのがRelex社との堅固なパートナーシップである。ブライセンのオフィスにはロシアから来たエンジニアが常駐しており、必要であれば客先まで出向いてその場でLinterのソースコードの変更を行うこともあるという。製品自体もさることながら、それを支えるサポート体制の強固さがLinterの特徴といえるだろう。
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