大丈夫。その失敗は必ず来年へつながるよ!:車を愛すコンサルタントの学生フォーミュラレポ2012(2)(1/2 ページ)
お待たせ! 「明るく楽しいモノづくり」を提唱するコンサルタント 関伸一氏の学生フォーミュラ観戦記の2回目をお届け! さて今回の4校はどこ? シンクフォーの山下祐氏もまた登場。
前回に引き続き、「第10回 全日本学生フォーミュラ大会」(静岡県袋井市内の小笠山総合運動公園、通称「エコパ」で開催)に出場したチームへのインタビューを紹介しつつ、私の偏屈な車への思いなどを交えて“明るく楽しく”つづります。
横浜国立大学
まずは「レーサー社長」であるシンクフォーの山下祐氏が部品製作でサポートをしている横浜国立大学「YNFP」のピットにお邪魔し、チームリーダーの曽根健太郎さん(以下KS)にインタビューしました。2011年の大会で総合2位のチームです。
ピットを訪ねると、何やらあわただしい雰囲気で……。
シンクフォーの山下祐氏の学生フォーミュラ観戦記: | |
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関(以下SS) どうかしましたか?
KS エンデュランス出走直後にトラブルを起こしてリタイアです……。
SS どんなトラブル?
KS バッテリーの取り付け部分が外れて、+端子がボディアースと短絡(ショート)してしまいました。
SS それは残念だったね……。でも、今年のマシンも素晴らしい出来だよ。特徴はどんな感じかな?
KS 足回りではシンプルさと軽量化を狙ってダンパーをじか付けにしました。また、外装ではエンジン部分も覆うフルカウルにしました。目的はもちろん「空力向上」でシミュレーションもしましたが、外観の美しさにもこだわりました。
SS フレームはスチールパイプですね。
KS はい、サイド部には角パイプを使って、カウルを直止めすることで、シンプルかつセミモノコック的な構造にしました。
SS クラッチペダルがあるけど、やはりエンデュランスは変速なしで行くの?
KS はい。エンジン特性は低速域からフラットトルクにしています。発進時はクラッチを使い、アクセラレーションテストなどではパドルシフトで変速しますが、クラッチペダルは使わず、電子制御アクチュエータを使い、適切なタイミングでスロットルを抜きます。
筆者注:いわゆる、シングルクラッチロボタイズドMT、アルファロメオのセレスピード、フィアットのデュアロジック、フォルクスワーゲンのASGです。
SS さっきからピットが結構ざわざわしているようだけど……。
KS はい、実はトラブルが連続したのです。まず大会3日前の午後4時にアクスルシャフトが破断、すぐにシャフトを再作成して交換したのですが、そのときにジャッキアップポイントをミスってアップライトが破損(この部品を提供した山下氏が残念がっていました……)、さらにその修理時にバッテリーの固定がおろそかになりショートにつながったようです。トラブルの連鎖ですね……。
SS 「アクスルシャフト破断」って、かなり重大なトラブルだね? 原因は?
KS ちゃんと強度解析もしていたのですけど……。(大会出場前の)茂木のサーキット(栃木県芳賀郡のツインリンクもてぎ)でのシェイクダウンでダメージがあったと考えています。
SS あ、ここエコパのコースって、普段は駐車場だから、ごく一般的な舗装だよね。一方、茂木はサーキット用の舗装だもの。摩擦係数が全然違うよね。
KS はい。茂木でかなり走り込んで、安定した走りができたので、安心していたのです。しかし大会直前になって疲労破壊が起きたようです。とはいえ、学生フォーミュラは、特殊なレースです。とにかく走ってみて、トラブルが出たらそれに対応するという繰り返ししかないと思っています。
SS そうだよね! 大丈夫。その失敗は必ず来年へつながるよ! 期待しています!
トヨタ名古屋自動車大学校
いかにも空力に優れた形状、ピカピカに磨かれたカウリングのマシンが目立つ中、“ちょっと武骨な”マシンが目に止まりました。トヨタ名古屋自動車大学校の車両です。その学生フォーミュラチーム(TTCN-F)のサブリーダー、高度自動車科4年生の余村遼さん(以下Y)にお話を聞きました。
SS このマシンの一番の特徴は何ですか?
Y サスペンションにトーションバースプリングを使っていることと、サージタンクです。サージタンクはトヨタ「スターレット」用です。
SS スターレット! また古い車から持ってきたねぇ! サージタンクからの長目のマニホールドは、低速トルク向上のためですね。
Y はい、ベースエンジンはヤマハ「YZF600」という超高速型エンジンなので、低速向けに振っています。
SS やっぱりヤマハ製エンジンなんだ。ホンダの使ったら、怒られちゃうの?(笑)
Y いや、怒られるってことはないと思うんですけど……、やっぱり……(笑)。あ、でもサイレンサーはホンダ「CBR」用です。ノーマルサイレンサーだと騒音基準に余裕がなかったからです。
――エンジン部門担当、そしてドライバーとしてチームを引っ張る余村さんはここから力強く語ります。
Y 僕たちは設計があまり得意ではないんです。ですから、とにかく車を作って、走らせて、問題点を解決しながらチューニングするという手法を取っています。シミュレーションはしていませんから、安全率をどうしても高目に取ってしまって、車体が重くなってしまう傾向があります。でも僕たちには「整備技術」という武器があります。僕の学校の「高度整備科」というのは一級整備士の資格を取るための学科で、フォーミュラ部員は全員が二級整備士以上なんです。ですから整備不良はあり得ません。
――ここで山下氏(YY)の登場です。
YY そうだよね! ネジの締め方を知らなくても設計は出来ちゃうけど、整備はできないよね。他の幾つかのチームで、実際、明らかに整備不良でトラブルになった例を見ているけど、整備能力も本当に大事ですね。
SS 山下さん、そうですよね! ボルトの頭が着座してからレンチでゆっくり締めて「この辺りだ!」できっちり規定トルクに。そう言う感覚、大事です。そのためには何千回も何万回もボルト締めて、ときには「ボルト折っちゃった!」みたいな経験だって必要!
Y はい、僕たちもトルクレンチ使わなくても、ほぼ出来ますね。
SS このマシン、良い意味で“昭和の良き時代”の車の香りがするなあ。日本車が一番元気だったころの香りだよ。で、今年の成績はどう?
Y 今のところ40位くらいですが、この後のエンデュランスで20位台を狙います!
SS 頑張ってねっ!
結果的にエンデュランスはリタイアに終わりましたが、59位へという成績でした。今後も、大学チームとは少し雰囲気の違う、自動車大学校のチームの活躍に注目していきたいと思います。
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