ハイテンは高強度特性と高成形性を兼ね備えた高機能な素材ですが、いくつかの欠点があります。それらの欠点とは次の通りであり、プレス成形時に留意する必要があります。
ハイテンはプレス成形時に大きな変形を伴うと、割れが生じやすくなります。高強度なハイテンほど、割れの発生頻度が多くなります。割れは曲げ成形よりも絞り成形で生じやすく、曲げ変形でも曲げ半径が小さい場合は注意が必要です。
ハイテンの絞り成形または縮みフランジ成形では、圧縮応力が作用して表面にしわが発生します。一度発生したしわを取り除くことは、非常に困難です。また、しわの発生は見た目を損なわせることとなります。一方、しわを発生しない金型形状や成形法が開発されており、実用化されています。
図11に示すように、ハイテンを曲げ成形して金型から取り外すと、成形品が弾性的に回復し、形状が元に戻ろうとします。この現象を「スプリングバック」といい、部材の寸法精度に支障をきたします。スプリングバックの量はハイテンの強度が高いほど大きくなるため、注意が必要です。
この対策として、スプリングバックの量を予測し、その量だけ金型形状を修正する対策が一般的に取られています。また、金型修正に有限要素解析ソフトを用いたシミュレーションが活用されています。
高強度鋼では、水素脆化による遅れ破壊が深刻な問題となります。遅れ破壊とは、鋼中に水素が侵入し、時間の経過とともに少しずつ鋼が脆化して突然の破壊をもたらす現象です。遅れ破壊は鋼の強度が高いほど起こりやすいため、強度が1000MPaを超えるハイテンで問題となります。また、プレス成形後に残留応力が発生していると、水素脆化感受性が高まります。
この対策として、メーカーにおいて水素脆化感受性を抑えた成分設計が取られている他、プレス成形時に残留応力を低減する工法が取られています。
今なお進化を遂げているハイテンは980MPa級以上のウルトラハイテンが主流となりつつあり、車体骨格部への適用拡大が続いていくものと予想されます。ただし、ウルトラハイテンはプレス成形時にプレスにかかる負荷が大きいため、設備の維持管理に課題が残ります。また、前述したように割れやスプリングバックが発生しやすいため、扱いが容易ではありません。
一方のホットスタンプは、図12に示すように鋼板を熱間で成形し、部材を製造する工法です。鋼板を加熱炉で900℃程度に加熱し、温度が冷めないうちに金型にセットしてプレス成形します。鋼板は加熱によって軟らかくなっているため成形しやすく、プレスへの負荷が抑えられます。成形品は金型中でそのまま冷却され、焼き入れ状態となります。これにより、1500MPa級の超高強度成形品を製造できます。
ホットスタンプ成形品はスプリングバックが非常に小さいため、寸法精度に優れます。強度面でもハイテンに劣っていませんが、生産性が悪いという欠点があります。また、大規模な設備が必要となるため、今のところ大きな普及には至っていません。高温素材との接触によって金型が酸化(劣化)しやすいなどの技術課題も残っており、今後の技術発展と普及が期待されます。
以上、自動車用ハイテンについて説明しました。自動車におけるハイテンの適用効果や、成形性発現メカニズムなどをご理解いただけたなら幸いです。次回は、鉄鋼材料の検査/試験方法について説明します。
ひろ/モノづくりの解説書
鉄鋼品メーカーに勤務するモノづくりエンジニア。入社以来、大型鉄鋼品の技術開発、品質保証、生産管理等の業務に携わってきた。自身が運営するWebサイト「モノづくりの解説書」では、モノづくり業界の魅力を発信する記事や技術解説記事などを公開している。
[1]自動車材の2024年展望、脱炭素化で電炉材や再生樹脂への転換期に、日経TECH
[3]水焼入れ方式連続焼鈍プロセス(WQ-CAL)を活用した自動車骨格部品用高強度冷延鋼板、戸畑潤也ら、JFE技報、No.57、p.8-13、2026年
[4]自動車用ハイテン材の現状、齋藤和也、まてりあ、第53巻、第12号、p.584-588、2014年
[5]INSIGHT−プレスインフォメーション−2026.4.16、ホンダHP
[6]3章C(5)連続焼鈍、川鉄21世紀財団、鉄鋼プロセス工学入門
[7]高強度低合金TRIP鋼の組織と機械的性質、杉本公一ら、鉄と鋼、Vol.103、No.1、2017年
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