今なお工業材料の中心的な存在であり、幅広い用途で利用されている「鉄鋼材料」について一から解説する本連載。第15回は、自動車用ハイテンについて説明する。
鉄鋼材料は発明されて以降、先人たちの研究開発によって大きく進化を遂げてきました。材料特性のバリエーションが多く、さまざまな強度に応えてくれる鉄鋼材料は、間違いなく素晴らしい素材であると言えます。今回のテーマである「ハイテン」は、そのことがよく実感できる鉄鋼材料です。
ハイテンは自動車の骨格部の大部分に使用されている、ハイテクな鉄鋼材料です。非常に高強度であり、薄くても衝撃に耐える力が強いことから、自動車の「高強度化」と「軽量化」の両方を実現しています。ハイテンは半世紀ほどの歴史があるものの、現在進行形で研究開発が行われており、近年ますますその強度が上がっています。
ハイテンに注目すべき点は強度だけではなく、「成形性」の高さにもあります。ハイテンはプレス成形によって自動車部材に成形されるため、成形しやすいように材料設計されています。ハイテンのこの強度の高さや高い成形性を発現するメカニズムを知ることは、鉄鋼材料の知識向上を望む技術者にとって非常に有意義なものと考えます。
ここではまず自動車と鉄鋼材料の関わりについて説明し、それからハイテンの特性や種類、欠点について説明します。また、ハイテンの類似技術である「ホットスタンプ」についても最後に説明します。
自動車は車体骨格部、外板パネル、エンジン、動力伝達装置、排気管などの部品で構成されていますが、それらの部品の多くに鉄鋼材料が使用されています。図1にガソリン車の素材別組成を示します。自動車の約75%(重量比)にあたる部分に鉄鋼材料が使用されており、非常に大きなウェイトを占めていることが分かります。
その理由は、鉄鋼材料は入手しやすくてコストが安いこと、加工しやすいこと、十分な強度があることなどが挙げられます。また、剛性の高い鉄鋼材料による車体構造とすることで、衝突時の車体の変形を抑え(あるいは衝撃を吸収し)、搭乗者を保護するためです。その結果、自動車は1トンを超える非常に大きな重量を持つ移動体となっています。
一方、近年深刻化している地球温暖化や異常気象への対応として、CO2排出量の削減が産業全体で求められています。図2に2024年度における国内の部門別CO2排出量を示します。これを見ると、全体の16.5%が自動車から排出されています。量にして1億6000万トンという膨大な量となることから、自動車からのCO2排出量を削減することが強く求められています。この対応として、自動車メーカーはエンジン車やハイブリッド車に対し、燃費性能を向上させる技術開発を加速させています。
自動車の重量と燃費には相関性があり、重量が大きくなると燃費が悪くなることがよく知られています。先ほど説明したように、自動車の重量の大部分を占めているのは鉄鋼材料です。よって、自動車の燃費性能を向上させるには、車体に使用されている鉄鋼材料の量を減らし、軽量化することがもっとも有効な対策となります。
ただし、近年の自動車は衝突安全性能の向上も求められています。そのために車体を高強度化する必要がありますが、鉄鋼材料の使用量を増やすと車体重量が大きくなってしまいます。自動車メーカーは「車体の軽量化」と「車体の高強度化」という相反した要求を満たさなければなりませんが、この難しい要求を満たすことを可能にする優れた鉄鋼材料が「ハイテン」です。
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