原価の「見える化」はなぜ半年で形骸化するのか 犯人は機能不足ではなく「転記」受託加工業に必要な原価管理(2/4 ページ)

» 2026年09月09日 07時00分 公開

「段取り替えの30分」は、どの案件の原価なのか

 受託加工の現場では、別製品への切り替えや清掃のたびにラインが止まります。いわゆる段取り替えです。現場はこの時間をなるべく減らそうと知恵を絞りますし、その時間は誰の目にも見えています。ところが原価の上では、この時間に行き場がありません。前の案件と次の案件、どちらに付ければよいかが曖昧だからです。

 日報には書かれても、Excelのフォーマットへ転記する段階で真っ先に切り捨てられるのは、こうした「どの案件のものか迷う時間」です。結果として、段取りの多い小ロット案件ほど実際の原価は重いはずなのに、帳簿の上では他の案件と同じ顔をしています。「あの仕事、もうかったはずなのに現金が残らない」その理由の1つは、この行き場を失った時間です。

 これを数字にしてみます。例えば、段取り替えに掛かる時間が1回30分で、これが1日3回発生する場合、月20日稼働で計算すると月30時間になります。作業者の労務単価を1時間で2500円とすれば月間で7万5千円、年間で90万円になります。この90万円が、どの案件の原価にも載らずに消えている──。正確には、全案件に薄く紛れ込んで、小ロット案件の本当の重さを隠しています。年間90万円の行き先を答えられない原価管理で、1件数十万円の値引き交渉に臨んでいるのが、多くの現場の実情です。

「見える化」が続かない本当の理由

 冒頭の主張に戻ります。なぜ転記が、全てを決めてしまうのか。

 現場は、日報にもホワイトボードにも書いた同じ数字を、もう一度Excelに打ち直すことを嫌うため、二重入力は続きません。入力が続かなければデータは欠けてしまい、欠けたデータから算出された原価は信用できなくなり、信用できない数字は誰も見なくなります。機能を足したとしても、この負のループは切れません。むしろ機能が増えるほど入力欄が増え、転記の量が増えてしまいます。このような流れにより、多機能なシステムほど中小の現場で形骸化してしまいます(図2)。

図2:見える化が形骸化する構造[クリックで拡大] 出所:Whitebell

 このことを踏まえ、企業が解くべき問いは「どんな機能を足すか」ではなく、「どうやって転記をゼロにするか」なのです。

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