座屈を最初に定式化したのは18世紀の数学者オイラーだ。両端で支えられた細長い柱が座屈する臨界荷重Pcrは、次式で表現される。
Pcr=π2EI/Le2
Eは材料のヤング率、Iは断面2次モーメント(断面の曲がりにくさを表す量)、Leは座屈長さ(支持条件で決まる実質的な長さ)である。
この式が語ることは示唆に富む。第1に、臨界荷重は材料の強度に関する項を含んでいない。つまり、弾性座屈を考える限り、座屈荷重は材料の強度そのものではなく、材料の剛性(EとI)と長さ(L)に大きく依存する。丈夫な材料を使うことが、必ずしも座屈に強くなることを意味するわけではない。
第2に、座屈の臨界荷重は長さの2乗に反比例する。脚の長さを2倍にすると、座屈耐性は4分の1に落ちる。
この性質を1つの指標にまとめたのが細長比(slenderness ratio)λ=Le/rだ(rは断面の回転半径)。細長比が大きいほど、その部材は座屈しやすい。座屈応力σcrを細長比で表すと、σcr=π2E/λ2となり、細長比の2乗に反比例して急激に下がっていく(図2)。ある細長比を境に、座屈応力は材料の圧縮強度を下回る。そこから先は、強度がいくらあっても座屈が先に破損を決定することになるのだ。
テーブルの脚を思い返してほしい。見た目のデザインを優先して無理に細長くした脚、あるいはコストや軽量化のために断面を絞った脚は、この「座屈が先に来る」領域に入りやすい。「強度計算は通った」という安心は、細長比という別の物差しを当てた瞬間に崩れることがある。
では、CAEで座屈をどう診るのか。ここで使うのが固有値解析(eigenvalue analysis)、いわゆる線形座屈解析だ。
その考え方はこうだ。まず、製品に「ある基準の荷重」を与えて解析する。座屈固有値解析では、その基準荷重を何倍にしたら座屈が起きるかを解析する。その倍率を「固有値」として返してくれる。例えば、100Nを基準の荷重にして解析をしたとき、固有値が3.0であれば、解析モデル上は300Nで座屈する、という意味になる。
つまり、固有値は、解析条件上の座屈荷重の倍率であり、座屈に対する安全率の目安として読むことができる。固有値が1.0を下回るのであれば、今想定している設計荷重では座屈する可能性があるということだ。静解析が「応力が許容値を超えたか」を見るのに対して、座屈解析は「今の荷重の何倍で安定を失うか」を見る。見ている軸が違うのだ。
ただし、線形座屈解析で得られる固有値は、理想化されたモデルに対する座屈荷重倍率であり、実機の安全率そのものではない。初期たわみ、荷重の偏心、接合部のガタ、材料非線形、大変形の影響がある場合、実際の座屈荷重はこれより低くなることがある。
ここが座屈解析の重要なポイントだ。静解析の応力コンター図をいくら眺めても座屈の危険性は見えてこない。応力コンターでは、応力の高い部分や応力集中する場所を示してくれるが、座屈は応力が低い部材でも起こり得るからだ。脚の部分の応力が低いと表示されていても、その脚は次の瞬間には座屈するかもしれない。
座屈固有値解析が可視化するのは、応力ではなく座屈のモード形状、つまり部材がどのような形に崩れるのか、という変形のパターンだ(図3)。なお、座屈モード図の変形量は表示上スケーリングされたものであり、実際にその量だけ変位することを意味しない。見るべきなのは変形量の絶対値ではなく、どのような形で安定を失うかというモード形状である。
最も低い固有値に対応する1次モードは、現実に最初に現れやすい座屈形状の候補として読むことができる。テーブルなら4本の脚が同じ向きに傾く形、対角の脚が互いに逆方向へ逃げる形など、いくつものモードが固有値の小さい順に並ぶ。設計者が見るべきは、最小固有値とそのモード形状だ。「どこが弱いか」ではなく、「どんな形で安定を失うか」を読む。これが応力コンターを見る時とは別の視点なのだ。
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