データはあるのになぜ使えない? 日本の製造業に必要な「データ活用基盤」データを生かせない製造業の実践的活用戦略(1)(2/2 ページ)

» 2026年07月23日 07時00分 公開
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製造業特有のIT/OT/IoT統合とAI活用における課題

 製造業のデータ統合を考える上で、他の業種とは異なる特有の課題があります。それが「IT/OT融合(IT/OT Convergence)」です。一般的なビジネスデータを扱うIT(Information Technology)システムと、工場のライン制御や設備管理を担うOT(Operational Technology)システムは、これまで別々の組織や技術領域として管理されてきました。そこにさらにIoT(モノのインターネット)センサーが加わり、生産設備の稼働状況や温度、圧力、振動などのリアルタイムセンサーデータが大量に取得できるようになりました。

 しかし、多くの製造企業では、OT/IoTデータはIT系のデータ分析基盤と切り離された状態にあり、データサイロの中でも特に対処が難しい領域となっています。ERPやPLMのデータは見えますが、工場設備のセンサーデータまでは統合できていない企業も少なくありません。

 IT/OT/IoTのデータを統合することで、製造業ならではの新たなユースケースを実現することも可能となります。その代表例が「予知保全(Predictive Maintenance)」です。設備センサーのリアルタイムデータと過去の故障履歴をAIで分析することで、機器の故障を事前に予測し、メンテナンスチームへの自動通知や部品の事前調達が可能になります。

 また、製造ラインのカメラ映像をAIがリアルタイムで解析する「AI画像検査」も普及しつつあります。目視では見逃しがちな微細な欠陥を高精度で自動検出でき、品質管理コストの削減と精度向上を同時に実現できます。こうした取り組みは「OEE(Overall Equipment Effectiveness:総合設備効率)」の向上という形で定量的な経営効果として測定できるようになります。データ活用が製造現場の改善にどれだけ貢献したかを具体的な数値で示せるようになります。

 実際に、SnowflakeがInforma TechTarget傘下のOmdiaと実施した最新調査「2026年 生成AIとエージェントのROI」では、製造業は従業員の専門知識やスキル不足を課題として挙げる企業が41%と全業種平均を上回っています。一方で、製造業のうち、生成AIを活用している企業の90%が業務効率化の改善を実感しており、AIを現場で活用できる環境づくりが競争力の鍵になりつつあります。こうした背景から、専門知識を持たない現場担当者でもデータを活用できるAIやエージェント技術への期待が高まっています(出典:Snowflake「The Radical ROI of Gen AI」)。

photo Snowflakeの調査「The Radical ROI of Gen AI」[クリックでWebサイトへ]

複雑化するデータの取り扱いを解きほぐすAIの存在

 複雑なサプライチェーンでは、必要なデータを即時に入手することも困難です。多数の関係者間で連携してデータを集めるのも簡単ではありません。また、データの種類ごとに集計タイミングなどが異なり、週次/月次といった形でしかデータが提供されない例も珍しくはありません。必要なデータに必要なタイミングでアクセスできるのが正確で緻密な分析を行う上での理想です。しかし、全ての要素でこれが実現できている企業はあまり多くはないでしょう。

 また、歴史の長い企業では古いシステムがそのまま使われ続けていることも珍しくないため、近年の爆発的なデータ量の増大に対応できなくなっているケースも見られます。最近はシステムのクラウド移行を実現する企業も増えてはいますが、まだオンプレミスのシステムの運用を継続している企業も多く、そうした企業がシステム規模を拡大しようとすると大規模なプロジェクトとなってしまいます。クラウド移行済の企業でも、使用しているクラウドが異なっていたり、システムのデータ形式が違うなどの理由でそのままデータを共有できる形になっていないということもあります。

 中堅中小企業では、データ活用人材の確保やスキル継承の難しさが特に深刻な問題となっています。そもそもデータ活用に強い人材が社内にいないということも珍しくありません。いる場合も少人数であり、その人にしかデータ活用や分析ができないため、データ活用の取り組みそのものが属人化してしまっています。社内にデータサイエンティストが在籍しており、現場のリクエストに応じてデータ分析を実施している企業の例も聞きます。しかし、その場合でも現場とのやりとりに大きな負担が生じがちです。専門性の高い人材が現場のニーズ対応に忙殺されている状態は、せっかくのスキルの無駄遣いにもつながります。

 こうしたデータ活用人材の不足という課題に対し、AI技術の進化は新たな解決の糸口を提供しつつあります。例えば、「Cortex Analyst」に代表されるText-to-SQL技術では、データ分析の専門知識を持たないビジネス現場の担当者でも、自然言語(日本語や英語など普段使い慣れた言葉)で質問を入力するだけでデータベースへの問い合わせが自動実行され、回答を得ることができます。SQLの記述能力やデータ構造の知識が不要になることで、データサイエンティストへの依存度を大幅に下げられます。

 さらに「Snowflake CoWork(旧名称 Snowflake Intelligence)」のようなAIプロダクトでは、AIエージェントが複数のデータソースを自律的に参照しながら、より複雑なビジネス質問にも回答できるようになっています。データ活用の「民主化」が技術的に実現しつつある現在、こうしたAIツールの活用は人材不足への実践的な対応策として有望な選択肢となっています。

photo Snowflake CoWorkのイメージ[クリックでWebサイトへ]

 現在の企業に求められるデータ基盤とは、サプライチェーンに参加するさまざまな企業群に加えて外部のデータソースから提供される第三者のデータも含めた多種多様なデータを統合的に扱うことができ、さらに特別なデータ分析のスキルを有する専門家でなくても業務に必要なデータ分析をある程度自力で実行できるような使いやすさも兼ね備えたシステムだといえます。こうしたシステムを実現していくために考慮すべきポイントについて、次回以降さらに解説していきます。

筆者紹介

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三本木宏(さんぼんぎ ひろし)
Snowflake合同会社

 Snowflakeにおいて、日本市場におけるSnowflakeマーケットプレイスの成長を主導。国内外のデータおよびアプリケーションプロバイダーの参画促進や、日本の顧客企業による利活用を推進。前職のFactSetでは、国内データフィード事業およびアジア太平洋地域におけるESGソリューション事業を担当し、金融機関に対し分析基盤の強化やESGワークフローの高度化支援を実施。


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