中国のヒューマノイドロボット市場は、劇的なパラダイムシフトの渦中にある。出荷台数は前年比約7倍、世界シェアは8割に達し、異業種企業の参入で本体企業数は倍増した。野村総合研究所の李智慧氏による、量産化フェーズへ突入した中国市場の急成長を支えるマクロ動向の解説を紹介する。
ヒューマノイドロボット(人型ロボット)の実用可能性については、日本国内ではいまだ多くの疑問や慎重な見方が存在している。しかし隣国の中国に目を向けると、ヒューマノイド関連企業は前年比で倍増し、大手テック企業やメーカーによる活発な投資、さらには異業種からの参入が相次ぎ、人型ロボットを核とした産業変化が着実に進行している。
こうした産業の実態を明らかにするため、野村総合研究所は「中国の人型ロボット産業における技術革新の最新動向」と題したセミナーを開催した。同社 未来創発センター 未来社会・経済研究室 チーフエキスパートの李智慧氏が登壇し、2025年7月からの約1年間で同産業がどこまで進展したのか、その現在地と急成長を支える主要プレイヤーの動向を分析。あわせて、日本が今後どのように追い上げていくべきかについての示唆を提示した。
前編となる本稿では、人型ロボットの新たな概念と、異業種を巻き込んで拡大する中国市場のマクロ動向をひもとく。
そもそもロボット産業における「ヒューマノイドロボット」とは、どのような概念なのだろうか。従来の産業用ロボットとの決定的な違いは、AI(人工知能)が根本から組み込まれている点にある。李氏によると、現代のヒューマノイドロボットは、大きく分けて「大脳」「小脳」「ボディー」という3層構造で構成されている。
第1の層である大脳は、AIの大規模モデルに基づき、外部環境の認識やタスクの実行計画などを実現する役割を持つ。さらに、複数台のロボットが互いに同期し、協力し合いながら動く群制御の機能も担うため、大脳とクラウドが連携する「クラウド脳」という概念としても定着している。第2の層である小脳は、歩行やダンスといった全身の運動制御をつかさどる。そして第3の層であるボディーは、物理的な動作の実行を担う部分であり、手や足などを通じた外部環境の感知機能や、機体本体への各種センサーなど多様な技術が集約されている。
こうしたAIを中核とするヒューマノイドロボットの発展を底上げしているのが、ハードウェアからアプリケーションまでが密接に連動する「産業チェーン」の存在である。具体的には、クラウドやエッジAIチップによる計算能力、ロボットの脳を賢くするためのデータ資源、特化型AI開発プラットフォーム、大規模モデルやアルゴリズム、そして最終的なサービス展開を担う応用層といった要素で構成される。「中国では、これら多重の産業チェーン全体が密接かつ有機的に連携することで、ヒューマノイドロボットの技術革新を強力に後押ししている」と李氏は分析した。
中国国内におけるヒューマノイドロボットの市場規模と出荷台数は、近年顕著に拡大している。中国の研究機関の調査によると、2025年の中国国内における市場規模は、前年比約450%となる2100億円に達すると推計されている。統計方法は異なるものの、世界全体の市場も前年比508%を遂げており、いずれにしても市場規模が急激に拡大していることが分かる。
この勢いは出荷台数の推移にも現れており、全世界の出荷台数は2024年の約2800台から2025年には約2万台へ増加し、中国は世界シェアの84%を占めるに至った。市場では主にUnitreeやAgiBot、Lejuが市場をけん引している。李氏は「中国ヒューマノイドロボット産業は、本格的な商用化と量産化の元年を迎えている」と語った。
実際にロボットが投入されている応用シーンの内訳を見ると、現段階ではデータ収集が35%、教育/研究目的が25%で、全体の約6割は将来に向けた基盤作りの用途にとどまっている。一方で、実社会への応用も進んでいる。内訳をみると、展示ホールや博物館、観光地における受付や案内といったインタラクションサービス(22%)に加え、製造ラインや物流倉庫などでの活用(10%)へと広がっている。
中国での市場規模拡大を裏付けているのが、「研究開発力の高さ」だ。スタンフォード大学のレポートによると、2024年の計算機科学分野におけるAI論文数において中国は世界トップに立った。近年は論文の引用数も増加しており、いまだ首位を維持する米国に対してその差を縮めつつある。
また、AI関連特許の登録件数においても中国は世界最多で、現在では全世界の特許の約7割を中国が占める状況となっている。特許の価値を測る指標である前方引用数は米中両国を合わせると全体の8割を超えており、同領域において中国は米国と同等に、大きな影響力を持つ存在へと進化を遂げている。
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