ハードウェアと市場が先行して急拡大する一方で、自律制御を担う基盤モデルの領域にはいまだ乗り越えるべき壁が多い。後編となる本稿では、オープンソース化で社会実装を急ぐ中国プレイヤーの動向を解説。圧倒的なスピードで独走する中国に対し、日本が目指すべき生存戦略を提示する。
急激な研究開発と進化を遂げているヒューマノイドロボット(人型ロボット)だが、実際の社会や産業の現場における「実装」は果たしてどこまで進んでいるのだろうか。前編では、野村総合研究所が2026年6月23日に開催したセミナー「中国の人型ロボット産業における技術革新の最新動向」の内容から、中国市場のマクロ動向や、異業種参入をはじめとする活発な投資動向について解説した。
後編となる本稿でも引き続き、同セミナーに登壇した野村総合研究所 未来創発センター 未来社会・経済研究室 チーフエキスパートの李智慧氏の分析をもとに、ロボット基盤モデル開発の現在地と、製造や物流現場における具体的な社会実装の実態をひもとく。その上で、圧倒的なスピードで突き進む中国に対し、日本が目指すべき現実的な生存戦略の在り方を提示する。
ハードウェアと市場が先行して急拡大する一方で、自律制御を担うソフトウェアの領域には乗り越えるべき壁が多い。李氏は、「ロボットの頭脳となる基盤モデルはまだ初期段階にある」と指摘した。
スタンフォード大学の研究によると、家事成功率を評価するベンチマークにおいて、1000種類のタスクのうち「部分目標の達成」に至った割合は約26%であり、完全に成功したタスクは12.4%にとどまった。また、安全性を評価するベンチマークでは、23の多段階タスクのうち、最良のモデルでも安全に完了できたタスクは3分の1未満であった。現在の基盤モデルは複雑な環境下におけるタスク実行の成功率が低く、安全面での課題があることが分かる。
こうした自律制御の壁を突破するため、グローバルではロボットに物理法則や空間特性を理解させるVLA(Vision-Language-Action)や、WFM(World Foundation Model)といった複数のアプローチが並行して研究が進められている。
また中国市場では産業全体での社会実装を加速させるため、プレイヤーの役割分担が明確化しつつある。
具体的には、アルゴリズムやモデル開発、OSの構築に特化するLimX DynamicsやGalbotなどのタイプ、知能モデルからハードウェア本体、二次開発プラットフォームまでフルスタックの技術体系を網羅するAGIBOTやUnitreeなどのタイプ、そしてハードウェア製造には直接参入せず、シミュレーションツールやデータセットの提供など開発インフラを担う北京人型ロボットイノベーションセンターのようなタイプだ。
李氏は、「米国がオープンソースとクローズドソースを戦略的に組み合わせた混成構造をとる傾向にあるのに対し、中国企業は自社の技術をオープンソース化し、業界全体で改良を回すアプローチをとる傾向にある」と分析した。自社のコア技術をあえて囲い込まずに公開することで、業界のデファクトスタンダードを早期に獲得するとともに、プレイヤー同士が相互にリソースを補完し合うエコシステムを形成している。
中国では開発基盤の整備を進める一方、ヒューマノイドロボットの実社会への導入も加速させている。
電子機器受託製造のLongcheerは、2026年4月にAGIBOTtの人型ロボット「Genie G2」複数台を精密機器の生産ラインに導入した。タブレット端末の製造ラインにおいて、部品の取り出しや配置、治具の組み付け、完成品の搬送といった一連の作業を担い、2283回のタスクを成功率100%で完遂している。1工程当たり18〜20秒、1時間当たり310台の製品処理が可能だ。
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