金属疲労についてはいろいろな文献があるので、ここでは必要最小限の情報にとどめます。図7にスプーンを曲げて折った例を示します。自分の手で曲げるので超能力は不要ですね。
この例ではスプーンを曲げて永久変形させているので、数回の変形で折れてしまいます。しかし、永久変形が起きないくらいの変形(ばねの伸び縮みのようなものです)でも、100万回くらい繰り返すとスプーンは折れてしまいます。これが金属疲労です。
ここからは力を断面積で割った応力で議論しましょう。
図8に横軸を時間として応力変化を示します。引張強さσBとは、引張試験機で試験片を破断させたときの最大荷重を試験片の断面積で割った値です。応力の単位はパスカル[Pa]ですが、引張強さは8桁くらいの大きな数になるので、通常はメガパスカル[MPa]で表記します。「応力の単位として[N/mm2]を使うんじゃない」とは、筆者のシリーズで2回ほど理由を付けてぼやいていますね(参考記事)。
図8左図は1回の荷重で破断したものです。図8右図は繰り返し荷重が作用した場合で、疲労試験機にかけた試験片に発生する応力変化です。
疲労試験では図示した応力振幅をいろいろ変えて試験し、何回で破断したかを記録します。試験では、破断回数と応力振幅のデータがいくつか取得できるので、これをグラフにプロットし、図9に示すようにデータに近くなるような線を引きます。これを「S-N曲線(stress-number of cycles curve)」といいます。横軸は繰り返し荷重回数、縦軸はそのときの応力振幅です。
鉄鋼材料の場合は、S-N曲線が水平になるようなデータが得られます。水平ということは、無限回の繰り返し荷重に耐えることを意味しています。このときの応力振幅を「疲労限度」といいます。
応力値は応力変化の全体量ではなく、振幅であることを覚えておいてください。
あと、疲労限度と等しい応力振幅が発生している場合を考えます。その機械部品は絶対に疲労破断しないわけではありません。実験データにはばらつきがあるので、疲労破断確率は50[%]くらいだと認識しておいてください。
余計な話になりますが、溶接部の設計では図10に示した応力レンジΔσを使います。溶接部の強度計算では、応力振幅を2倍した値を使うことを忘れがちなので注意が必要です。
先に破断面について説明します。ボルトであろうと何であろうと、強度不足で破断した場合は「SEM(走査型電子顕微鏡:Scanning Electron Microscope)」で断面観察をします。
断面観察によって、「疲労破断」なのか、「何らかの理由で大きな荷重が作用して起きた一発破断」なのかが分かります。疲労破断の場合は、き裂が発生した位置(「起点」といいます)が分かるので、対策立案の重要な情報となります。図11に断面の例を示します。
図11左図には、き裂の進展方向が矢印で追記されています。意識して見ると縞状の模様があります。これを「ストライエーション」と呼びます。
でもこれ、われわれ素人が見てもストライエーションかディンプルか判別できませんね。断面観察では必ず専門家に見てもらう必要があります。図12にストライエーションとディンプルの断面形状の模式図を示します。
では、どうして波状のストライエーションができるのかを説明します。これは日本機械学会の論文で紹介されていた説明なのですが、定説になっているかどうかは分かりません。ただ、波状の形ができる現象をうまく説明できていると思います。
図13にストライエーションができるメカニズムを示します。例えば、ダイエットして大幅に体重が減ったとしましょう。体はスリムになりますが、皮が縮むことはないのでしわができますね。これと同じ発想です。なお、ストライエーションの波1つが荷重1回に対応すること自体は定説になっています。
き裂の進展は、パリッ、パリッと金属が割れるのではなく、塑性変形がベースになっていると考えられます。図13では最初からき裂があるとしました。では、平らな面からどうしてき裂ができるのか――。これについては文献に説明がありますが、筆者はその説明にあまり納得していないので割愛します。
次はディンプルですね。図14にディンプルができるメカニズムを示します。
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