こうした常に変化し続ける通商環境下において、大平氏は日本企業が取り組むべき3つのアプローチを提言した。その根底としては、「関税の変動に即応できる柔軟なサプライチェーンを平時から構築しておく『Agile by Design(アジャイルバイデザイン)』という考え方を適用するべきだ」と語る。各社は受け身の姿勢を脱却し、戦略的かつ機動的に通商関税管理機能を再設計することが求められている。
提言の1つ目は、「ファーストセール」の戦略的な活用である。通常、関税は最終的な輸入価格に対して課される。しかし、取引の独立性などの一定の要件を満たしていることを証明できれば、最終価格ではなく工場からの出荷価格といった「最初の売買価格」を関税評価額として申告することが制度上認められている。これにより中間業者のマージンなどを課税標準額から除外できるため、適法に関税負担を引き下げるスキームとして有効となる。一方で、2026年2月11日に、米国上院財政委員会にてファーストセールの利用を制限または否定する法案が提出された。今後の審議次第ではこのスキームが使えなくなるリスクもはらんでおり、企業は米国議会の動きを注視しつつ、制度が存続する間の活用と、廃止された場合のリスクシナリオを並行して想定しておく必要がある。
2つ目は、「アンバンドリング」による課税対象の最小化である。企業間の取引においては、技術支援費用、金型代などが製品価格に一括して含まれる傾向にあるが、実際の輸入価格には運賃や保険料、米国到着後に発生する役務費用など、非課税要素が混在しているケースが多い。これらをインボイスや契約書の見直しによって明確に切り離す、すなわちアンバンドルすることで、関税が課される対象額そのものを最小化できる。大平氏は、「契約や請求の在り方を精査し直すだけでも、即効性のあるコスト削減につながるケースは多い」と実務面のメリットを強調した。
3つ目は、代替案(プランB)の常備と、サプライチェーンの分散である。特定の国や地域への依存を脱却し、通商法第301条、第232条などのリスクが顕在化した際に、切り替え可能な調達先や輸送ルートを常に確保しておくことが求められる。
ここでは単なる取引先の変更にとどまらず、製品バリューチェーン全体を俯瞰(ふかん)した抜本的な見直しが不可欠となる。特に近年は、物流の担い手不足への対応として輸出入リードタイムの短縮が急務となる一方、増大する関税コストの抑制も同時に達成しなければならない。
具体的な手法としては、生産拠点の再配置や多角的な調達網の構築に加え、原産地規則の戦略的活用やHSコード(関税分類)の再評価が挙げられる。大平氏は「部品構成や最終組み立て地を変更することで適用税率を下げる、といったエンジニアリング的なアプローチも組み合わせながら、変化に強い強靭なサプライチェーンを設計していくことが求められる」と強調した。
EY Japanでは、こうした複雑化する米国の通商関税政策に対し、ACEデータを活用した違法関税の還付手続き支援や、アジャイルバイデザインに基づくサプライチェーンの再構築、適法な関税プランニングの導入など、日本企業の課題に応じた包括的な実務サポートを提供しているという。
大平氏は今後の通商環境について、「WTO(世界貿易機関)の原則に基づく公平公正な貿易の時代は終わり、経済安全保障を前提とした仕組みへと移行している」と指摘し、本社主導で戦略的な通商関税管理機能を再構築する重要性を示した。
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