優れた要素技術の“発射台”に、中小製造業を束ねる由紀ホールディングスの挑戦製造業“X”探訪(4)由紀ホールディングス(1/3 ページ)

多くの製造業がDXで十分な成果が得られていない中、あらためてDXの「X」の重要性に注目が集まっている。本連載では、「製造業X」として注目を集めている先進企業の実像に迫るとともに、必要な考え方や取り組みについて構造的に解き明かしていく。第4回は、中小製造業6社を束ね、独自の勝ち筋を探ろうとしている由紀ホールディングスの取り組みを紹介する。

» 2026年03月23日 08時00分 公開
[西垣淳子, 楠和浩MONOist]

 製造業DX(デジタルトランスフォーメーション)において、本質的な「X(ビジネス変革)」の在り方が問い直される中、成功している製造業はどのような取り組みを進めているのだろうか――。第4回は、それぞれで強みを持つ中小製造業6社を束ね、独自の勝ち筋を探ろうとしている由紀ホールディングスの取り組みを紹介する。

≫ここまでの連載「製造業“X”探訪」

本連載の趣旨

photo 政策研究大学院大学 特任教授の西垣淳子氏(左)と早稲田大学 リサーチ・イノベーション・センター 教授の楠和浩氏(右)

前石川県副知事で政策研究大学院大学 特任教授の西垣淳子氏と、早稲田大学 研究戦略センター 教授の楠和浩氏が「製造業X」を体現している企業や現場を訪問し、次世代を担う製造業の変革の姿を紹介する。また、その姿がインダストリー4.0などで示された参照モデルの中で、どういう位置付けを担うのかを示しつつ、成功のポイントについて議論する。

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由紀精密立て直しの経験を生かし由紀ホールディングスへ

 これまでの連載を通じて、製造業の変革に新たなエコシステム構築の動きが大きな推進力となっていることが見えてきたが、今回取り上げるのは、それぞれ特徴のある中小製造業6社を持株会社で束ね、独自の勝ち筋を探ろうとしている由紀ホールディングスだ。

由紀ホールディングスの概要

photo 由紀精密の本社

 由紀ホールディングスは、日本の優れたモノづくり技術を次世代へ継承し、世界へとつなげるための革新的な製造業グループである。2017年に、高い精密加工技術で知られる由紀精密の代表である大坪正人氏によって設立された。同社は、後継者不足などの課題に直面する中小製造業をグループ化することで、その卓越した技術を「プラットフォーム」として守り、発展させる独自のビジネスモデルを展開している。

 グループ内には、金属加工や金型の設計製造、超硬合金、超電導線製造といった多岐にわたる専門技術を持つ企業が集結しており、個々の企業では困難な経営改革やIT化、海外進出をホールディングスが主導してサポートする。茅ヶ崎の地から、航空宇宙開発や医療、エネルギー問題の解決に用いられる要素技術を広く支え、日本の中小企業が持つ潜在能力を最大化させる「モノづくりの救世主」として、産業界から大きな注目を集める存在となっている。


 2017年に創業された由紀ホールディングスは、「とがった要素技術を持つ中小製造業群の形成」を目指し、1社では難しい先行投資や経営資源などを複数社で共有することで各社がコア技術の錬磨に集中できる環境を作ってきた。由紀ホールディングスが形成しているエコシステムは、具体的にどういう姿を目指しているのだろうか。精密加工の由紀精密 代表取締役で、持株会社である由紀ホールディングス 代表取締役社長を兼任する大坪正人氏を、由紀精密本社に訪ねた。

 大坪氏は2006年に由紀精密の経営を引き継いだ。由紀精密は1950年創業の精密加工技術を得意とする製造業だ。大坪氏は、この由紀精密と由紀ホールディングス、さらにもう1社の代表取締役を兼任している。加えて「ファクトリーサイエンティスト協会」代表理事や神奈川県の「宇宙関連産業の振興を考える有識者会議」の構成員など、多方面で活躍している。

 大坪氏は、2000年に東京大学大学院 工学系研究科 産業機械工学専攻を修了し、インクスで働き始めた。インクスは、当時3次元データを活用し、製造プロセスの高速化を手掛け、金型業界に新たな時代を切り開いた企業である。今でも、製造業DX関連ではインクス出身者を見掛けることも多い。大学でソフトウェアによる機械制御を研究していた大坪氏からすれば、インクスの3Dデータを基としたモノづくりによる新たなビジネスモデルは自然に映ったという。そして、インクスから派遣された東北の中小企業での経験が、現在の由紀ホールディングス形成のきっかけとなったという。

photo 由紀ホールディングス 代表取締役社長の大坪正人氏

 中小製造業は、非常に重要な要素技術を持っているのに、その技術の価値が市場で評価されず、経営がうまくいかなくなるパターンが多い。大坪氏は、インクスから派遣された中小製造業で技術価値の見せる化に取り組み、黒字企業への転換を促した。その経験で学んだのは、日本の中小企業には、優れた技術があるが、その生かし方やブランディングの手法、営業のやり方に不慣れなケースが多いということだった。

 多くの中小製造業は、下請けとして大手企業からの受注対応に徹してきた。そのため「自分の技術の価値」を自ら見極めて市場に訴えるという攻めの提案力やブランディング力の強化が不得手なところが多い。由紀ホールディングスでは、この「技術を中心に考え、その技術を効果的にブランディング力に変える」という、中小製造業が苦手な部分を補うという基本理念を持っている。

 大坪氏はインクスでの経験の後、2006年に赤字が続く家業を継ぐために由紀精密に入社した。当時は「3年で黒字経営に変える自信があった」と大坪氏は述べる。しかし、黒字にはすぐに転換したものの、リーマンショックの影響などもあり、軌道に乗せるまでにはより多くの時間を要した。「精密加工技術という要素技術は強みとしてあったが、それ以外で成長のために必要なものが全くそろっていなかった。技術はあっても、しっかりとその技術の活用先を見いだして価値を伝え、市場につなげるための体制がなかった」と大坪氏は当時を振り返る。

 そこで、仲間の協力を得ながら、自前で体制の整備に取り組み始めた。Webサイトの制作、CI(コーポレートアイデンティティー)の策定、ロゴのリニューアル、社内の管理システム導入やIT化、営業活動など、取り組みは多岐にわたった。これらを経て、由紀精密は黒字化が定着し、中小製造業として成長に必要なものについての確証が持てたという。

photo 由紀精密の工場内。古い機械も整備し今でも現役で使用している[クリックで拡大]

 そして、これらのインクスでの中小製造業支援の経験と、家業である由紀精密立て直しでの経験を基に、取り組んできたことをいくつかの機能に分解して整理した。「これらの機能はどの企業でも基本的には必要なもので、これらを整理して中小製造業のプラットフォームのようなものが作れるのではないかと考えた」と大坪氏は語る。ただ、こうした機能に必要な人材を、個々の企業が雇い続けるのは難しいケースもある。そこで、「複数企業で共有できるようにする」という発想で、ホールディングスという仕組みに行き着いたという。「ホールディングスという枠組みで、それぞれの機能や人材を共有できれば、技術に特徴があるが成長しきれていないさまざまな企業を助けることができるのではないかと考えた」(大坪氏)。

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