優れた要素技術の“発射台”に、中小製造業を束ねる由紀ホールディングスの挑戦製造業“X”探訪(4)由紀ホールディングス(2/3 ページ)

» 2026年03月23日 08時00分 公開
[西垣淳子, 楠和浩MONOist]

由紀ホールディングスは他社とどう違うのか

 中小製造業の後継者不足が話題になって久しい昨今、事業承継問題を抱える中小企業を傘下に収めるホールディングス形態の会社もいくつか出てきている。だが、そうした会社と比較すると、同じホールディングスでも、由紀ホールディングスの経営姿勢は大きく異なる。そこで、大坪氏に由紀ホールディングスの特徴を引き出すために2つの質問をしてみた。

 1つ目は「なぜ、ホールディングスという形なのか」ということだ。技術の価値を見極めて各企業を支援するというだけであれば、ホールディングスという形ではなく、業務提携などを含めた緩やかな企業連携グループの形でもよいはずだ。これに対し、大坪氏は「ホールディングスにすることで運命共同体として、一緒に利益を伸ばしていくためだ」と答える。

「ホールディングスを親会社とし、その他の企業を100%子会社という形とすることで、グループ全体の利益を伸ばすことが全ての従業員にとって共通の利益となる構造を作りたかった。明確な資本関係がなければ、個々の子会社の利益と全体の利益が相反することも起こり得る。そういう状況を避けたかった」(大坪氏)

 2つ目の質問は「ホールディングスに加える企業の選び方」だ。助けを求める中小製造業を全て加えていては、状況によっては由紀ホールディングス全体が傾く可能性も生まれる。そこには選定の基準があるはずだ。これに対して、大坪氏は「見ているのは企業体としての在り方ではなく、あくまでも技術だ。技術は失われてしまうと取り戻せない。将来にわたり残したい技術力を保有しているかどうかが大きな基準となる。事業承継できない会社を引き受けて全員生き残りましょうという考えはない」と回答する。また、技術にこだわるからこそ、要素技術の重なりのある企業は選ばないということだった。

 技術は人の手にあり、会社のブランドにその技術の価値が支えられている。そのため、由紀ホールディングスに加わる企業は、企業の名前も基本的にはそのまま維持する。技術を継承していくために、その技術の価値をブランド化して、売り上げにつなげることで、しっかり伸びていくことを目指しているのである。

 これらを整理すると、大坪流ホールディングスは、名前こそホールディングスであるが、その実態は、一般的なホールディングスとは異なることが分かる。

photo 図1:一般的なホールディングス体制(左)と大坪流ホールディングス体制(右)の違い[クリックで拡大] 出所:筆者が作成

 図1の左側は一般的なホールディングスを、右側は大坪流ホールディングスを表している。一般的なホールディングスは、ホールディングスの傘下に事業会社単位で複数の会社がぶら下がる形となる。一概にはいえないが多くの場合、それぞれの事業会社は基本的に顧客企業(図では業種A〜業種C)や決まった産業への営業面での対応窓口であることが多い。業種、あるいは業界に対応する形で事業会社が分かれており、ある顧客にある技術を提供しようとすると、決まった事業会社を経由して届ける形となり、技術軸で見ると、同じ技術を複数の事業会社で持っている場合も多い。

 一方、大坪流ホールディングスでは、企業体としての形の上では各事業会社がホールディングス傘下にあるように見えるが、顧客企業にはそれぞれの企業が持つとがった技術(表1)で相対する形となる。そのため、大坪流ホールディングスでは、各事業会社間の技術はすみ分けされており、ホールディングス内でのカニバリゼーションは起きず、同じ業種に複数の企業から価値(技術)を提供する形となる。

表1:由紀ホールディングス傘下の企業と特徴的な技術
会社名 各社のとがった技術
由紀精密 精密切削加工技術+機械設計技術(特に宇宙)
仙北谷 宇宙品質の金属加工+金属3Dも含めさまざまな加工技術を複合した金属加工技術
昭和金型製作所 金型設計および製造技術
国産合金 超硬合金製造・加工技術+耐摩耗ソリューション
YUKI Precision SAS (販売会社)精密部品販売
日本超電導応用開発 世界一細い超電導線材を用いた超電導応用技術

 この形態には、次のようなメリットもある。例えば、グループ内である分野の市場環境が悪いときには、好況で忙しい別の分野の企業に人を移すなど、グループ全体で対応人員の適正化を図ることができる。これは、大企業の部門間での調整とも似ているが、中小製造業同士で大企業のような環境対応力を確保できるようになる。もちろん、企業ごとに給与テーブルも福利厚生も異なり、地域間の給与格差などもあるが、それでも、グループ全体で変動幅を吸収し安定化させるため、全体最適を考慮した経営が行える。

 一方で、由紀ホールディングス自体は技術の継承を重要視しているが、企業の従業員全ての雇用を保証し続けるということは目的にしていない。所属する企業の調子が悪い場合、その技術を生かせる別の企業があれば出向させる。あくまでも技術が中心であり「この会社のこの業務しかしない」という人を残すことはしない。大坪氏が考えているのは、企業が倒産することでその企業の持つ重要な技術が失われるのを避けることで、それが全ての原点にある。

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