川崎重工 社長直轄プロジェクト本部 ソーシャルロボット事業戦略部 特別主席の山口潤氏は、同社の産業用ロボットへの取り組みを振り返りつつ、今日の状況について語った。AIはめざましい発展を遂げているが「実体」がないと素晴らしさは享受できない。川崎重工はその「実体」に取り組んでいると捉えており、特にロボットの製造/販売だけでなく、自社も含めて現場導入を数多く手掛けてきたことから、教示が手軽になったことや、立ち上げ工数の劇的な削減が一番の変化だと考えていると述べた。
川崎重工では2通りのアプローチで現場実装を進めてきたという。1つが作業分析、もう1つが人の行動分析だ。山口氏は「これら両方のアプローチを取っているのは川崎重工だけだ」と語る。
作業分析アプローチは、大手とも協業しながら現場ノウハウの抽出を行い、それをロボット動作に落とし込むためにシミュレーション、双腕制御、遠隔操縦やAIを使う。例えば、製品サイクルが短いスマートフォンの製造では、導入/立ち上げに時間がかかるロボットよりも人手が用いられることが多い。そこに対して、右手と左手の役割を抽出して、双腕ロボットで置換できるようにした。
塗装や研磨などの工程も多品種少量なのでプログラミングに時間はかけられない。だから人手が使われることが多い。ここに遠隔操作技術を用いることで、ワーカーの作業環境/安全性を向上させた。人とロボットの間はつながっているので、ベテランの暗黙知をデータとして抽出することもできる。山口氏は「これはフィジカルAIそのものだ」と述べる。例えば、自動車にシートを取り付ける作業では視野が遮られることが多く、人の感覚が必要とされる。そのような作業の自動化も可能かもしれない。
人の行動分析については、まず提供価値が高いエキスパートの作業を対象とする。山口氏が事例として挙げたのが看護師の作業だ。分析したところ7割が搬送作業となっており、その自動化を目指した。ただし、国によって何をどこからどう搬送するかが異なる。日本の場合はナースステーションがあるが、海外の場合はあまりそういう形になっていないので、ロボットにも自分でハンドリングできるハンドをつけた。今はありものの技術を組み合わせて使っているが、これからはAIエージェントなども組み合わせる。
今後は、さらに対象業界を広げていく。想定外があっても作業完遂が求められるソーシャルロボットの実用化が求められているが、そのためには従来の産業用ロボットにはなかったインテリジェンス、コミュニケーション、センシングといった技術が必要であり、他社とも協業しながら進めていると述べた。現在、センシング、コミュニケーション、インテリジェンスからロボットのアクションを生成するフレームワーク開発を目指しており、一連のツールチェーンと場を整えようとしていると紹介した。
具体的にはGUIを使った簡単プログラミング、シミュレーターを使った可視化ツール、実機実行ができることを目指しており、ロボットに不慣れな人でも誰でもロボットが操作できるようにしようとしているという。
ロボット側も共創/連携に向けてアーキテクチャを整備しようとしている。ロボットの実機に直結する下位レイヤーはメーカーの世界だが、上位層はパートナー各社に開放する。自然言語で喋ったことをそのまま仕事させるといった世界の実現を目指す。
山口氏は最後に、川崎重工の考えるフィジカルAIについて、「単に物理動作させることだけではなく、変化する状況に対して先読みしながら最良の行動を選択すること」だとした上で、「ロボットはインテリジェンスの社会実装の担い手になれるのではないか。あらゆるところにロボットが入る社会が来ることを目指している」と述べている。
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