宇宙利用の活発化と地政学リスクの上昇は、現在、同時進行しています。人工衛星は通信/測位/地球観測などの民生分野に不可欠な基幹インフラである一方、安全保障分野とも密接に結び付く典型的なデュアルユース(軍民両用)技術。その点で特に懸念されるのは、宇宙関連システムに対する不正な干渉や攻撃の増加です。
1986年以降、国内外で90件以上の衛星通信妨害やサイバー攻撃などが発生しているとされており、攻撃手法は、「電波妨害(ジャミング)」や「なりすまし(スプーフィング)」といった電磁的手段に加え、地上局や関連ネットワークを標的とした「サイバー侵入」など、多様化しているのが現状です。
2018年には、無許可でネットワークに接続された機器を経由したサイバー攻撃により、NASA(米国航空宇宙局)の研究データが外部に流出する事案も報告されました。宇宙にある機器そのものだけでなく、地上の管制システムやサプライチェーンを含めた統合的なセキュリティ対策の重要性が改めて浮き彫りになった事例といえるでしょう。
宇宙は地上から遠く離れているものの、その運用基盤は地上インフラと密接につながっています。宇宙安全保障はもはや軌道上の問題にとどまらず、サイバー空間や電磁領域を含む複合的なリスク管理の課題へと拡張しているのです。
私たちの平和と安全を維持するためには、防衛力の強化だけでなく、資源/エネルギー/食料の安定確保といった総合的な安全保障が不可欠。各国が宇宙空間で覇権を競うなか、人類が宇宙を平和的に利用し続けるためには、まず国際的なルールづくりと枠組みの整備は必須だといえます。
一方で、人工衛星には高度なハイテク技術が集約されており、その開発や運用には競争力を備えた企業群の存在が欠かせません。宇宙分野は国家戦略産業であると同時に、グローバル市場で戦うビジネス領域でもありますから、先ほども述べたように産学官が一体となり、研究開発から量産、実装までを見据えた体制を構築できるかどうかが国際競争の勝敗を分ける大きな要素となります。
ここで改めて問われるのが、「日本のモノづくりの強み」です。川上から川下までが緊密に連携し、細部をすり合わせながら最適解を導く「すり合わせ型」の産業構造は、時間と手間を要する半面、圧倒的な精度と信頼性を実現してきました。一方、米国や中国は標準化、モジュール化を軸に、「スピード」と「量産性」で優位に立ちます。
確かに開発サイクルの短縮は競争上の武器ですが、宇宙領域に限って言えば、宇宙環境は地上とは比較にならないほど過酷であり、わずかな誤差や設計上の妥協が致命傷になりかねません。だからこそ、高精度部品を徹底的に磨き込み、最適統合する日本型の製造戦略は、この分野において大きな競争力を持ち得るのではないかと感じています。
「精密さ」と「粘り強さ」を武器に、日本の産業界がこの成長市場に本気で挑むとき、宇宙は単なる「夢の舞台」ではなく、新たな競争力を生み出す「実力発揮の場」となるでしょう。今こそ、日本のモノづくりの真価を宇宙で示すときなのです。
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那須直美(なす・なおみ)
インダストリー・ジャパン 代表
工業系専門新聞社の取締役編集長を経てインダストリー・ジャパンを設立。機械工業専門ニュースサイト「製造現場ドットコム」を運営している。長年、「泥臭いところに真実がある」をモットーに数多くの国内外企業や製造現場に足を運び、鋭意取材を重ねる一方、一般情報誌や企業コンテンツにもコラムを連載・提供している。
産業ジャーナリスト兼ライター、カメラマンの二刀流で、業界を取り巻く環境や企業の革新、技術の息吹をリアルに文章と写真で伝える産業ドキュメンタリーの表現者。機械振興会館記者クラブ理事。著書に「機械ビジネス」(クロスメディア・パブリッシング)がある。
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