モノの量産を巡る「機械ビジネス」〜金型、板金からレアメタルまでディープな「機械ビジネス」の世界(3)(1/2 ページ)

本連載では、産業ジャーナリストの那須直美氏が、工作機械からロボット、建機、宇宙開発までディープな機械ビジネスの世界とその可能性を紹介する。今回は、モノを量産するために必要な要素や材料について触れる。

» 2025年11月04日 08時00分 公開
[那須直美MONOist]

 前回は、あらゆる世の中の製品を生み出す源泉である「工作機械」の重要性を振り返りました。今回は「モノを量産するために必要な要素や材料」について述べたいと思います。

⇒連載「ディープな『機械ビジネス』の世界」のバックナンバーはこちら

 商品を量産するに当たって必要なものに「金型」があります。金型があるからこそ、同じ形の商品を大量に素早く、しかも品質にバラツキなく安価に作ることができます。身近な例として、自動車部品は約3万点、スマートフォン部品は約1000点にも及ぶ部品が使われており、金型によって多くの部品が生産されています。

 金型の製作にはコストがかかりますが、この金型を活用して同じモノを大量に作れば作るほど、製品単価が安くなります。

3Dプリンタによって金型の位置付けは変わるか

 もし、この世に金型がなければ、部品の1つ1つを削るといった方法でモノを生産しなければならず、そうなると部品1個当たりの生産コストは跳ね上がり、品質にもバラつきが発生する上、気の遠くなるような製作時間がかかってしまいます。

 金型の品質は製品の良しあしを左右するほど重要ですが、当然ながら金型自体にも寿命があります。何回も使い続けると、摩耗が起きたり、割れたりするため、金型の寿命は最終製品の品質にも大きく影響します。

 製造コストを考えると、金型を単に「消耗品」として考えるよりも、生産におけるメンテナンスや工程短縮による時短なども考慮し、コストパフォーマンスを総合的に考えるのがベストです。そして品質の良い金型には、耐摩耗性や高剛性をかなえる技術やノウハウが詰まっています。

 日本の金型メーカーの強みは、顧客が金型を使う過程におけるアフターケアが充実している点ですが、近年、激しい国際競争に煽られ、価格競争の消耗戦が繰り広げられています。

 その一方で、自動車のEV(電気自動車)化や半導体関連の需要増加に伴い、世界の金型市場は拡大傾向にあるため、伸びている外需を取り込むことにより、経済を活性化させることも期待できます。

 ただ、利益向上のためには、新たな価値創造も必要であり、多様化する顧客のニーズに対応するため、M&Aなどによる組織再編も有効な手段とされています。

 近年では、3Dプリンタの出現によって「金型が不要になるのでは?」という声も聞きます。

 実際に、意匠性の高い一品モノや、少量生産のモノを作る場面では、すでに3Dプリンタを使ったモノづくりが実用化されています。こちらも将来性が見込まれ、期待されているものの、「大量に生産する」という観点から見ると、安定品質を保ちながら高能率化を実現し、製造コストを低減できる金型の方が有効とみる向きもあります。

 その一方で、3Dプリンタは近年、技術進化が加速しています。

 今はまだ金型での製造よりも生産スピードが遅いのですが、いずれは高速化や高精度化も進んでいくことでしょう。データさえ送れば、どこでもモノをつくることが可能になるので、さまざまな国/地域での少量分散生産もトレンドになるかもしれません。

製造インフラが整った日本にとってのチャンス

 現在、日本の金型産業を取り巻く環境は、アジア新興国企業の台頭により、国際競争力の低下などが懸念されていますが、日本の強みは、素材、工作機械、切削工具、表面処理などの強力な「製造インフラ」が整っていることです。

 世界中で人間が生活している限り、モノは毎日作られる必要があります。この点だけを見れば、伸長する海外需要を取り込むチャンスもあると言えます。

 いずれにせよ、将来的には金型を製作するにも3Dプリンタを活用して、それぞれの良さを補完し、融合した、新しい生産技術が出現するのではないかと考えています。

 他にも製品づくりに欠かせない要素の1つに「板金」があります。板金とは、平たい金属の板を切る、穴を開ける、曲げる、くっつけるなどの工程を経て、目的の形状に作り上げることです。鉄道車両部品、PCの躯体、ビルの外壁、エレベーター、自動改札機など、さまざまなモノが板金で作られています。

 板金加工の特長は、多様な板金加工用の機械を利用して、多品種少量の製品を、短納期かつ低コストで加工できる点です。金属から削り出す加工では、さまざまな工具を機械に取り付けなければなりません。一方、板金加工は金属の板を曲げて形を作っていきます。その分、段取替えの工程が少なく、加工時間も短いといったメリットがあります。

 現在、板金加工のほとんどの工程は、人によるバラつきを排除することで精度の安定化を図りつつ、工程短縮による作業効率の大幅な向上を目的に、コンピュータで制御されるNC機械によって行われています。

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