「新しい機械を買うな!」工程並べ替えで生産増をかなえる「IEの魔術」とは“脱どんぶり勘定”の現場改善術(2)(3/3 ページ)

» 2026年02月26日 06時00分 公開
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【実践ワーク(2)】DXツールを入れる前に描くべき「PERT図」

 さて、「A→B/C→D」と作業の流れを整理し、並列にするべき作業と、本当はサボっていても全体の生産量が変わらない現実を皆さんとワークで直視してきました。次はこれを、「PERT図(パート図)」と呼ばれる図解で理解していきたいと思います。

 「PERT図」といきなり専門的に見える方法の名前を聞くと、手が止まってしまうかもしれません。ですが、この手法は誰にでもできる、DXや自動化を考える上で最も強力な武器になります。

「PERT図」を書く

 挿絵を参照していただき、実際にPERT図を書いてみましょう。

DXツールを入れる前に必要な「PERT図」の作成方法 DXツールを入れる前に必要な「PERT図」の作成方法[クリックで拡大]
  1. 端に丸を描き「1」と書きます
  2. そこから右へ矢印を引き、丸を描き「2」と書きます(これが工程A)
  3. 「2」から、上と下の2方向に矢印を分岐させて伸ばします
  4. 上下の矢印を再び1つの丸で合流させ、「3」と書きます(上が工程B、下が工程C)
  5. 「3」から右へ矢印を伸ばし、丸を描き「4」と書きます(これが工程D)
  6. 【工程と時間の記載】1→2の矢印:工程A(10秒)/2→3(上ルート):工程B(60秒)/2→3(下ルート):工程C(40秒)/3→4の矢印:工程D(20秒)

「クリティカルパス」を見える化する

 PERT図を描く最大の目的は、「クリティカルパス(最長経路)」を見つけることです。工程A(10秒)のあと、道が2つに分かれ、

  • 上の道:工程B(60秒)
  • 下の道:工程C(40秒)

そして最後に工程D(20秒)で合流します。

 この時、スタートからゴールまで一番時間がかかるルートは「1→2→3(上ルート)→4」のルートです。これをクリティカルパスと呼びます。

 全体の生産時間は、このクリティカルパスの長さ(10+60+20=90秒)で決まります。「クリティカルパス上にない工程(余裕がある工程)をいくら改善しても、全体の時間は1秒も縮まらない」ということです。

 「見かけの稼働率」への執着のことの繰り返しになりますが、もし皆さんが、「C機(40秒)」を2000万円する最新の高速機(20秒)に買い替えたらどうなるでしょうか? Cの工程は速くなりますが、全体の時間は「B機(60秒)」が支配しているので、90秒のまま変わりません。2000万円の投資効果は、生産量においては「ゼロ」です。

 逆に、「B機」の工程を1秒でも縮めれば、それはダイレクトに全体の生産量アップにつながります。

ボトルネックは移動する

 改善を進めると、B機が40秒以下になった時点で、今度はC機や人の作業が新たなクリティカルパスとして浮上してきます。このように、ボトルネック(クリティカルパス)は改善するたびに移動します。

 1つの制約を取り払うと、次の制約が見えてくる。これを繰り返すことで、理論原単位(物理的な限界)に近づいていくのです。

DXツールは「矢印の時間」を測るために使う

 ここでようやく、IoT(モノのインターネット)やDXツールの出番です。

 PERT図を描こうとしても、「あれ? B工程の正確な時間って何秒だっけ?」と分からないことがあります。あるいは、「人によってバラつきがある」こともあります。DXツールは、ただ漫然と稼働率を見るためではなく、この「PERT図の矢印ごとの正確な実績値」を取得するために導入するのです。測定するためのテクニックの基礎などは、前回の記事をご覧ください。

 「クリティカルパスはどこか?」「余裕工程はどれくらいあるか?」これをデータに基づいて精緻に描くことができれば、無駄な投資を避け、本当に必要な「ボトルネック」だけにリソースを集中させることができます。

まとめ〜まずは紙とペンで図を描こう〜

 今回、「工程の並び替え」と「PERT図によるボトルネック特定」というテーマでお話しさせていただきました。

 最後に、読者の皆さんにぜひ実践していただきたいアクションプランを提示します。

  1. 自社の主要製品の工程を「PERT図」にする
    • まずはホワイトボードや紙で構いません。丸と矢印を使って、作業の分岐と合流を描いてみてください
  2. 各矢印に「時間」を書き込む(ストップウォッチで!)
    • システム上の標準時間ではなく、実際に現場で測った「生の時間」を入れてください
  3. 「クリティカルパス(一番長い経路)」を赤線でなぞる
    • それが、あなたの工場の今の限界能力であり、唯一の「攻めどころ」です
  4. 赤線上の工程を「並列化」あるいは「短縮」できないか考える
    • 他の矢印(余裕のある工程)はいったん無視して構いません。赤線を短くすることだけに全力を注いでください

 これを行うだけで、設備投資ゼロで「生産量4割増」は決して夢物語ではありません。新しい機械のカタログを見る前に、まずは今の現場の「時間の使い方」を因数分解し、PERT図で再構築する。その泥臭いプロセスこそが、本質的なDXへの近道なのです。

今回のまとめ 今回のまとめ[クリックで拡大]

 さて、ここまで2回にわたり、製造/物流現場の「直接部門(モノを作る/運ぶ現場)」におけるIEとDXについてお話ししてきました。

 「うちは工場じゃないから関係ない」「事務作業がメインだから」。そう思われている方もいるかもしれません。しかし、IEの思考法は、デスクワークや間接業務にこそ、すさまじい威力を発揮します。承認フローの停滞、重複した入力作業、形骸化した会議……これらは全て、工場における「在庫」や「チョコ停」と同じです。

 次回のテーマは、「現場だけではない!間接業務におけるIE思考と、ノーコードツールを味方につけた高速改善文化の醸成」です。

 Excel職人が属人化させた業務をどう解きほぐすか? プログラミングのできない現場担当者が、自らの手で業務アプリを作り、カイゼンを加速させる未来とは? 次回も、リアルな失敗談と成功のヒント満載でお届けします。お楽しみに。

著者プロフィール

小林 悠真(こばやし ゆうま)

九州大学大学院修了後、ヤマトシステム開発、バンテックにて物流・生産管理に従事。その後、ラクスルなどのIT企業にて事業開発・SCM構築を歴任。自動車産業の緻密な管理手法とIT企業のスピード感を融合させた現場改善を得意とする。

現在は、プロ人材サービス「ウィズプロ」のプロ人材として製造業・物流業のDXコンサルタントとして複数社の支援を行っている。

ウィズプロとは

ウィズプロは、製造、モノづくり業界に特化したプロ人材と企業課題をつなぐ伴走支援型サービスです。三菱電機グループの商社であるRYODENのネットワークを背景に、現場実装まで見据えた支援を提供しています。

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⇒その他の「“脱どんぶり勘定”の現場改善術」の記事はこちら

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