最後に、日本の海外に対する資産や負債の残高(ストック)についても確認しておきましょう。
これまでご紹介した収支(フロー)は1年間のやりとりを記録したものです。その収支が繰り返されて、海外との資産負債残高(ストック)が変化します。図4が日本の資産/負債残高です。日本は世界一の対外純資産国といわれてきましたが、それがどういった意味なのかも理解できるかもしれません。
日本の対外資産負債残高を見ると、資産も負債も拡大が続いてきたことが確認できます。バランスで見ると、日本が海外に持つ資産の方が超過していて、その正味の純資産は拡大傾向が続いてきたことになります。2024年には533兆円もの純資産を海外に対して保有していることになるのです。
この中で、証券投資は差引き144兆円のプラス、金融派生商品は7兆円のマイナス、その他投資は97兆円のマイナスとなっています。
一方で直接投資は299兆円ものプラスとなっています。日本の対外資産の大部分は直接投資の不均衡による超過分ということになります。
あらためて表4でそれぞれの言葉の意味についても紹介しておきます。
日本と海外との経済関係は、貿易、直接投資、証券投資などで拡大傾向が続いています。その中でも、企業の海外事業となる直接投資は対外活動(自国企業での海外事業)が大きく拡大している一方で、対内活動(海外企業の自国での活動)が少ない特徴があるようです。
この不均衡によって、直接投資収益が大きく超過し、経常収支を押し上げています。対外資産負債残高でも、日本が海外に持つ資産の多くが直接投資の不均衡によるものとなります。
これまでは日本は海外に対して割高な国だったこともあり、輸出よりも海外現地生産の推進が選ばれてきたことが要因として考えられます。一方で、近年では日本は割安な国へと変化しています。経済安全保障の重要性が高まったり、関税問題で輸出に大きな影響が出たりと、企業の対外関係も大きく変動していることになります。
特に直接投資では、対外活動が大きく超過しているアンバランスさが特徴的です。日本は海外にばかり投資していて、海外から投資されていないからこそ、投資収益が超過しているとも言えます。
直近では、半導体産業において、台湾のTSMCの日本国内での操業が話題ですが、これは外国企業の直接投資(対内活動)です。今後このような対内活動が増えていくと、海外に対する直接投資収益の支払い(フロー)や負債(ストック)が増えていくことになります。
一方で、日本が安い国になったことによって、国内生産からの輸出を拡大する余地も増えてくるかもしれません。今後の海外との経済関係を客観的に把握していくうえで、今回ご紹介した経常収支とその内容は大変参考になるはずです。
次回は、今後のキーとなる直接投資の規模やバランスについてご紹介していきます。
⇒記事のご感想はこちらから
⇒本連載「小川製作所のスキマ時間にながめる経済データ」の目次はこちら
⇒前回連載の「『ファクト』から考える中小製造業の生きる道」はこちら
小川真由(おがわ まさよし)
株式会社小川製作所 取締役
慶應義塾大学 理工学部卒業(義塾賞受賞)、同大学院 理工学研究科 修士課程(専門はシステム工学、航空宇宙工学)修了後、富士重工業株式会社(現 株式会社SUBARU)航空宇宙カンパニーにて新規航空機の開発業務に従事。精密機械加工メーカーにて修業後、現職。
医療器具や食品加工機械分野での溶接・バフ研磨などの職人技術による部品製作、5軸加工などを駆使した航空機や半導体製造装置など先端分野の精密部品の供給、3D CADを活用した開発支援事業などを展開。日本の経済統計についてブログやTwitterでの情報発信も行っている。
既に輸出の3倍に、“海外で稼いで配当を送る”海外現地法人の現状
米国、中国から見た貿易相手国「日本」 存在感は著しく低下
かつての“輸出大国”日本の復活はあるのか 貿易データが示す立ち位置の変化
「日本企業は投資しなくなった」は本当なのか? 国内製造業のデータで確かめる
日本は本当に「貿易立国」なのか、ファクトに見える真実
製造業の経済安保対応、サプライチェーン多元化が進む一方で未対応も「約6割」
今や“凡庸な先進国”へ、一人当たりGDPに見る日本の立ち位置の変化Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
製造マネジメントの記事ランキング
コーナーリンク