大変革期を迎える「輸送機械」の世界〜EVから空飛ぶクルマまで〜ディープな「機械ビジネス」の世界(5)(2/2 ページ)

» 2026年01月19日 07時00分 公開
[那須直美MONOist]
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クルマは「輸送機械」から「ITプラットフォーム」へ

 これらに加え、さらに注目したい点として、自動車産業が「モビリティ産業」へ変換する動きを加速しており、クルマは「輸送機械」から「ITプラットフォーム」へ変貌中であることが挙げられます。

 モビリティという言葉には、「物理的な動きやすさや流動性」という意味があり、近年では「CASE(ケース)」といった概念も生まれました。

 CASEとは、「Connected」(接続する)」「Automated/Autonomous(自動運転)」「Shared&Service(シェアリング)」「Electrification(電動化)というモビリティの変革を表す4つの頭文字から取った造語です。この概念は、今や自動車産業の未来像を語るには欠かせないものとなっています。また、この考え方がクルマそのものを変えていく可能性があります。

 例えば、自車がセンサーなどで集めた情報に加えて、クルマに搭載したインターネットなどの通信機器を用いれば、信号や周辺車両ともつながり、走行中に自動で周辺状況を把握することが可能になります。自動的に方向転換やアクセル、ブレーキを作動させれば、人の手が不要の自動運転が実現します。

 今後は通信技術の発展により、ネットと常時接続しているクルマの普及が拡大していくと見込まれます。完成形がまだ見えていない分野でもありますが、普及拡大につれてこれらの新技術を搭載したクルマの開発もまた進んでいくことが期待されています。

 自動車産業は今、まさに嵐の真っ只中にありますが、その裾野は極めて広く、関連産業の多くを中小零細企業が支えているのも事実です。日本のモノづくりは、電動化への対応にとどまらず、新たな領域への挑戦、さらには企業同士の連携やM&Aを通じて、カーボンニュートラルの実現に向けた産業構造を築こうとしています。変化の波を乗り越え、その先にある成長をつかむための挑戦が、いま始まっているといえるでしょう。いずれにせよ、将来の子どもたちは、「常にガソリンを燃やして自動車を走らせていたなんて怖すぎる!」と驚く時代がやってくるかもしれません。

 先ほど「CASE」について触れましたが、CASEが目指すものは、「人が自由に移動できること」です。この取り組みに関して言えば、少子高齢化が避けられない日本において、新たなモビリティサービスに期待がかかるところです。

成長が期待される「空飛ぶクルマ」eVTOL

 現在、注目されるモビリティサービスの1つに、人やモノが移動する手段として、垂直に離着陸ができる電動の飛行機体「eVTOL(イーブイトール:Electric Vertical Take-Off and Landing aircraft)」が挙げられます。

 eVTOLは、「空飛ぶクルマ」や「エアタクシー」として認知されつつあります。この分野は将来、大きな市場へ成長する可能性があるとの見方も多く、カーボンニュートラルの実現に向け、燃費のよい機体の導入や、従来機材から省燃費機材への更新が見込まれています。

 eVTOLのメリットは、滑走路が不要で騒音が少なく、駆動する際に温暖化ガスを出さないうえ、コストがヘリコプターと比較して安価であるといった点にあります。日本でも都市部の送迎サービスや離島への移動手段、緊急時の救急輸送などを見据えて、政府では2030年代にeVTOLの本格導入を目指しています。

 よく、「eVTOLはヘリコプターとどこが違うのか?」と比較されます。大きな違いは、ヘリコプターの動力源はエンジンですが、eVTOLは電気が動力源なので、部品点数がヘリコプターに比べて少なく、製造コストも抑えられるということです。自動運転が可能になれば操縦者が不要となるため、将来的に運航費用もその分だけ削減可能で、経済効率をさらに高めることができるでしょう。

 次に国際的な物流と移動手段を担う航空機について触れてみたいと思います。航空機の部品点数は、約300万点にも及ぶといわれており、航空機の製造は中小企業を含めて幅広いサプライチェーンで支える構造となっています。これらは、民間航空機だけの話ではなく、防衛産業や安全保障上でも重要な役割を担います。

 ハイテクの塊である航空機は、高度1万メートル前後で外気温がマイナス50℃ほどという極寒の世界を、時速900km以上で飛行します。このような過酷な環境の下でも安全な運行が求められるので、航空機の部品や材料などを作るには、特に高い技術水準が必要になります。こうした高度な技術を持っている航空機関連産業は、防衛産業を支える一翼も担っており、ほかの産業と比較しても最先端の生産技術が盛り込まれています。

 自動車産業と同様に、現在、航空機産業でも、世界中でカーボンニュートラルの実現に向けた動きが加速しており、それには温室効果ガス排出量を削減する必要があります。そのために、水素燃料方式の航空機を実現するための燃焼器や燃料供給システム、軽量・耐極低温燃料タンクの開発のほか、電動化、制御システムのソフトウェア化などが進められています。

 経済と環境の好循環を作り出すために、航空機産業も技術開発をもって対応していますが、重要な点は安全面とともに「軽量性」や「コスト」です。機体構造向けの先進アルミ合金、チタン合金、CFRP(炭素繊維複合材)などは、「難削材(なんさくざい)」、つまり一般的なものより切削や加工が難しい素材として知られていますが、こうした素材における切削加工技術や高速成形/接合技術の開発が進んでいます。

 エンジン部材においても、高温部位向けセラミックス基複合材料(硬いけれどももろいセラミックス基材にセラミックス繊維などを混ぜることで、割れにくく補強した先進素材)、耐熱合金の製造プロセスなどで、革新的材料の開発が行われています。こうした動きからも目が離せません。

著者略歴

那須直美(なす・なおみ)

インダストリー・ジャパン 代表

工業系専門新聞社の取締役編集長を経てインダストリー・ジャパンを設立。機械工業専門ニュースサイト「製造現場ドットコム」を運営している。長年、「泥臭いところに真実がある」をモットーに数多くの国内外企業や製造現場に足を運び、鋭意取材を重ねる一方、一般情報誌や企業コンテンツにもコラムを連載・提供している。

産業ジャーナリスト兼ライター、カメラマンの二刀流で、業界を取り巻く環境や企業の革新、技術の息吹をリアルに文章と写真で伝える産業ドキュメンタリーの表現者。機械振興会館記者クラブ理事。著書に「機械ビジネス」(クロスメディア・パブリッシング)がある。


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