Rescale Japanは、技術セミナー「Rescale's Vision for the Future」を開催。米Rescale CEOのヨリス・ポート氏が「Rescaleの最新情報と今後のビジョン」をテーマに基調講演を行い、データとAIを軸とした今後のR&Dの在り方について言及した。
Rescale Japanは2025年12月11日、東京都内で技術セミナー「Rescale's Vision for the Future」を開催。「Rescaleの最新情報(Rescale Data Intelligence)と今後のビジョン」というテーマで行われた基調講演では、米Rescale CEO(最高経営責任者)のJoris Poort(ヨリス・ポート)氏が登壇し、同社の歩みとともに、データとAI(人工知能)を軸とした今後のR&Dの在り方について語った。
講演の冒頭、ポート氏は、同社の日本法人であるRescale Japanが2026年に10周年を迎えることに触れ、日本市場が同社にとって特別な意味を持つ理由について、自身の原体験を交えて語った。Rescaleを創業する以前、同氏はボーイング787「ドリームライナー」の主翼設計に携わるエンジニアの1人として、大規模な計算と物理シミュレーションを用いた設計に従事していたという。当時、主翼の製造は日本企業が担っており、日本のチームと密接に連携しながら設計最適化を進める中で、計算資源の制約やデータ活用の難しさに直面したことを振り返った。
この経験を通じて、「エンジニアとして本当に欲しかったプラットフォーム」を形にすることを目指してRescaleを創業するに至ったという。2011年の創業から間もなく15年が経過し、現在では自動車、航空宇宙、半導体、新エネルギー、さらに創薬や医療機器開発といったライフサイエンス分野まで、幅広い業界で事業を展開している。直近1年間では1億1500万米ドルを超える資金調達を行い、数百社に及ぶエンタープライズ企業と協業しながら、年間20億米ドル超に相当する計算処理がRescale上で実行されている。
「RescaleのDNAは、常にアクセラレーテッドコンピューティングにある。顧客の中核となるシミュレーションワークフローを支え、より高速に実行できるよう支援してきた。われわれは過去15年にわたり、このパイプラインを進化させ続けている」(ポート氏)
続いて、Rescaleの将来ビジョンと、データおよびAIへの取り組みが紹介された。
Rescaleは長年にわたりHPC(High Performance Computing:高性能計算)に注力しており、クラウド事業者、計算技術、ISVシミュレーションベンダーなどと連携しながら、R&Dを支える物理解析基盤を構築してきた。その結果として、堅牢(けんろう)なシミュレーション環境を実現しているという。そして、このシミュレーション環境の上に新たに構築されたレイヤーが、「Data Intelligence」である。
Data Intelligenceは、シミュレーションデータに限らず、PLM(製品ライフサイクル管理)、要件管理、クラウドやオンプレミスのデータ、試験システムといったあらゆるSystem of Record(SoR)をつなぐデータファブリックとして位置付けられている。この統合データ基盤によって、R&Dに関わる全てのデータを新たなワークフローやタスクに活用できるようになり、その上に最新のAIツール群を配置しているという。
その中で、重要な要素となるのが「Agentic Engineering」だ。Agentic Engineeringとは、単一の機能を指すのではなく、大規模言語モデル(LLM)を活用して、アクションやエージェントとして、R&Dの生産性を高めるものだ。
さらに、ポート氏はもう1つの重要な要素として「AI Physics」を挙げた。これは、特定用途向けに学習したAIモデルを用いて、確率論的に物理シミュレーション結果を予測する技術だ。ポート氏は「このAgentic EngineeringとAI Physicsこそが、現在AIをR&Dに適用し、イノベーションを加速させる上で最も重要な2つの要素である」と強調する。
「組織変革における最終的な価値提案は、エンジニアがより多くの仕事を、より速く進められるようにすることだ。そして、デジタルスレッドやデジタルツインが掲げてきた価値を実現することにある」とポート氏は述べる。
デジタルスレッドは、エンジニアリングライフサイクル全体のデータをつなぎ、サイロ化を解消してコンテキストとデータを生かした迅速な開発を可能にする。AIソリューションがデジタルスレッドを活用するためには、データファブリックの存在が不可欠である。一方、デジタルツインは、製品開発からサービスまで、現実世界の製品を仮想的に理解する手段であり、より良い製品をより早く提供し、最終顧客への価値創出につなげる。そして、これらを支える柱として、統合データ基盤、ワークフローとプロセス自動化、エージェンティック自動化、R&Dインテリジェンスエンジン、AI Physicsが挙げられた。
この取り組みの出発点となるのが、統合されたデータ基盤だ。R&Dに関わる全てのデータを1つのデータプレーンに集約することで、コアとなるデータセットや、R&D部門内で何が起きているのかというコンテキストを活用できる。さらにその上に、ワークフローとプロセス自動化があり、R&Dの工程を理解しながら各ステップを効率的に実行できる。加えて、エージェンティックな自動化機能も提供する。
これらを支えるのがR&Dインテリジェンスエンジンであり、AIアシスタントを活用することで、R&D活動そのものを理解し、支援することが可能になる。そして最後にAI Physicsがあり、組織内で行われてきた物理解析やシミュレーションの知見を、知的財産(IP)として蓄積/活用できるようにする。
こうした機能を実現するためのキーとなる要素の1つが、Model Context Protocol(MCP)である。MCPは、AIエージェントが外部ツールやデータソースとコンテキストを共有しながら連携するためのプロトコルだ。Rescaleではプラットフォーム全体にわたって、AIエージェントやさまざまなタスクで利用できる複数のMCPインタフェースを提供しているという。「これにより、AIエージェントがコンテキストを保ったまま多様なタスクを実行できるようになる」(ポート氏)。
Rescaleはシミュレーションデータレイクハウスも提供しており、全てのシミュレーションデータと、その生成条件に関するコンテキストを保持している。これにAIアシスタントを組み合わせることで、多様なタスクの実行が可能になる。
さらに、エンジニアが日常的に行っている定型作業や付加価値の低い作業を自動化するため、AIエージェントの機能も拡充しているという。ポート氏は「このようなデータインテリジェンス層とデータファブリックを活用することで、AIによるさまざまなタスク実行が可能となり、エンジニアリング組織の生産性を大幅に高められる」と説明する。
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