世界第2位の販売台数を誇るVWグループが、電動化への移行に対して積極的な姿勢を示している点は興味深い。また、VWグループは米国市場における販売比率が比較的低いことから、第2次トランプ政権による自動車関税の影響は、日本の自動車メーカーと比較して限定的である。では、日本の自動車産業は、このようなVWグループの長期戦略に対して、何を参考とすべきであろうか。筆者は、以下の3点に着目すべきと考える。
新型車両に対しては、スタイリングやスペックはどうなのかと考えがちであるが、主戦場がSDVのソフトウェア領域に移っていることは再認識すべきであろう。日本では「モノづくり」への志向が根強く残っているが、今後の自動車開発においては、ソフトウェアの重要性が飛躍的に高まることは疑いない。実際、中国市場では生成AI(人工知能)を搭載し、利活用した車両も出現している。日本企業においても、車載向けソフトウェアの多様化/高度化に対応するための戦略的な取り組みが急務であろう。
VWグループが提唱する次世代プラットフォーム「SSP」においては、バッテリー構造をボディーと一体化する設計思想が採用される予定である。この構造は、既にBYDが「SEAL」などのBEVにて実装している「Cell to Body(CTB)」コンセプトと同様のアプローチである。バッテリーパックを車体構造の一部として機能させることで、部品点数の削減と車内スペースの最適化を実現している。BEVの第2世代/第3世代においては、専用プラットフォームの採用により、ギガプレス、e-Axle、次世代サーマルマネジメントなどの革新的技術との統合が可能となる。日本の自動車産業においても、従来の設計思想にとらわれず最適構造を追求することで、新たなビジネス機会の創出につなげられるのではないか。
これまで、BEVおよびPHEVは、ICEやHEV(ハイブリッド車)と比較して高価格帯に位置付けられてきた。しかし、VWは2万5000ユーロ未満のID.Poloや、約2万ユーロのエントリーレベルBEVの市場投入を計画しており、価格破壊を目指す戦略のようである。また、BYDは日本市場においても価格競争力を有する軽EVを2026年後半に発売する予定であり、グローバル市場でも価格破壊戦略が進行中である。日本国内では電力料金や原材料費の高騰が続いているが、中国など一部地域では景気低迷や若年層の高失業率が報道され、経済状況には地域格差が存在する。このように世界的な景気の濃淡を踏まえ、国際的な連携を強化することで、ビジネスチャンスも生まれてくるのではないだろうか。
和田憲一郎(わだ けんいちろう)
三菱自動車に入社後、2005年に新世代電気自動車の開発担当者に任命され「i-MiEV」の開発に着手。開発プロジェクトが正式発足と同時に、MiEV商品開発プロジェクトのプロジェクトマネージャーに就任。2010年から本社にてEV充電インフラビジネスをけん引。2013年3月に同社を退社して、同年4月に車両の電動化に特化したエレクトリフィケーション コンサルティングを設立。2015年6月には、株式会社日本電動化研究所への法人化を果たしている。
BYDが日本市場に軽EVを投入する意図を考察する
EV向けワイヤレス給電の現在地と普及に向けた課題
米国非関税障壁に関する指摘とBYD超急速充電システムへのCHAdeMO規格の見解は
日本の自動車産業が直面する深刻な閉塞感、今後に向けてどう考えていくべきか
中国で急成長するEREVはグローバル自動車市場の“本命”になり得るかCopyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
モビリティの記事ランキング
コーナーリンク
よく読まれている編集記者コラム