EVシフト減速の中、なぜフォルクスワーゲングループは堅調なのか和田憲一郎の電動化新時代!(59)(2/3 ページ)

» 2025年11月10日 08時00分 公開

2.次世代EVプラットフォーム「SSP」の導入

 近年、VWグループは、統合ソフトウェアの開発にとどまらず、ハードウェア面においてもグループ全体の統一を志向する動きを見せている。従来、ブランドや車種サイズに応じて「MEB」「MQB」「MLB」「PPE」など複数のプラットフォームを併用してきたが、これらを次世代EV向けプラットフォームとして「SSP(Scalable Systems Platform)」に統合する計画が進行中である。実施時期は2028年ごろと見込まれている。

 これまで、主にBEV向けにはモジュール型のMEBプラットフォームを採用するケースが多かった。しかし、他社の技術動向を踏まえ、現行の構成では将来の競争力確保が困難と判断したと推察される。加えて、VWグループが多数のブランドを擁していることから、それらを包括的に支える統合プラットフォームの必要性も考慮されたのではないだろうか。

 SSPについて現時点で判明しているのは以下に挙げる概略のみであり、詳細な内容はまだ公表されていない。

  • バッテリー構造はモジュール方式ではなく、ボディーとの一体型構造を採用する
  • 電圧システムは400Vから800Vへと高電圧化する
  • 小型車から大型車、さらにはスポーツカーまで幅広い車種に対応可能とする
  • レンジエクステンダーを含むPHEV車種にも対応可能とする
  • プラットフォーム統合による製造コストの削減を図る

 つまり、VWグループは、SDV時代に向けて、統合ソフトウェア「VW.OS 2.0」と、それに最適化されたSSPを組み合わせることで、今後の車種展開に対応しようとしているようだ。

3.トリプルA戦略

 2025年2月5日、ドイツのヴォルフスブルク市にあるVW本社工場で開催された工場会議において、VWブランドのCEOであるトーマス・シェーファー氏が、中核ブランドの将来的な事業方針を発表した。それほど大きく報道されなかったが、筆者は重要な発表であったと考える。というのは、単なるプレスリリースではなく、あえて本社工場で発表したことに意義があったのではないだろうか。

 なぜかと言えば、2024年11月にVWグループは大規模なリストラ計画を公表していたからだ。同計画では、ドイツ国内に所在する10工場のうち少なくとも3工場の閉鎖および他工場における雇用の縮小と従業員賃金の削減が含まれていた。その後、労使間で協議が行われた結果、工場の閉鎖は回避されたものの、2030年までに国内において3万5000人以上の人員削減を実施することで合意した。このような状況下において、経営陣が本社工場の従業員の前で次世代車両の発表を行い、VWとしての団結と前進の姿勢を示す必要があったと思われる。

 発表の中心的な内容は、ヴォルフスブルク工場で2027年に投入を予定している、約2万ユーロのベース価格を持つBEVを中心とする車両である。シェーファー氏は「欧州発、欧州向けの手頃な価格/高品質/高収益なBEVの提供を目指す」と述べている。

 さらに、同氏は「トリプルA戦略」と称する新たな事業戦略を発表した。これは、VWが2030年までに技術面において世界をリードする自動車メーカーとなることを目標に掲げており、以下の3段階から構成される。

  • Accelerate(加速):キャッチアップ的な意味合いを持ち、コスト構造の最適化と既存モデルポートフォリオの重点的な拡充により競争力を強化する
  • Attack(攻勢):2027年までに9つの新型モデルを導入。これには2万5000ユーロ未満のコンセプトモデル「ID.2all」(量産車では「ID.Polo」、図2)や約2万ユーロのエントリーレベルBEVが含まれる
  • Achieve(達成):量産セグメントにおける技術的リーダーブランドとして、VWは新たな基準を確立する
図2 図2 VWの「ID.Polo」[クリックで拡大] 出所:VWグループ

 言うまでもなく、本計画はシェーファー氏およびVWグループのCEOであるブルーメ氏によって、事前に綿密に策定されたものであると推察される。しかしながら、リストラ計画を含む厳しい市場環境下において、VW経営陣がいかなる戦略的思考を有していたのかは重要な視点である。特に、BEVおよびPHEVへの集中的な投資は、少量生産段階においては収益性の確保が困難であるが、販売台数が年間100万台を超える規模に達すれば、収益面においても利益を確保できるとの見通しを持っている可能性が高い。

 筆者が見る限り、VWグループの経営陣と日本の自動車メーカーの経営陣との間には、電動化に対する経営マインドに違いがあるように見受けられる。どちらかといえば、日本企業ではEVシフトに関して慎重な投資判断を下す傾向が強い。一方、VWグループは、企業構造の再構築を目的として電動化に大胆な投資を行っており、近年ではその動きがさらに加速しているのではないだろうか。

 日本的な慎重姿勢とVW的な積極姿勢のいずれが優れているかは分からない。しかし、前CEOであるディース氏の時代には、「EVへの移行を加速しなければ、携帯電話機市場におけるノキアと同じ轍を踏むことになる」との危機感が示されていた。これは、ICEの市場失速と、BEV/PHEVの立ち上がりの遅れによって生じる需要の低下、すなわち「自動車産業におけるオズボーン効果」が生じることへの懸念であった。当時、2025年前後が市場の底になると予測されていたが、現時点ではその兆候は明確には現れていない。(ただし、中国市場においてBEVとPHEVを中核とする新エネルギー車の販売比率が50%を超えており、ICEとの間に明確なギャップが生じていることは注目に値する)

 筆者の私見であるが、ディーゼルゲート以降のVWグループ経営陣は、ICEの市場縮小に対する危機感を抱きつつも、BEVとPHEVで100万台の販売台数を超えるレベルを達成した今、EVシフトに対して確信と信念を持って取り組みを進められているように見受けられる。

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