スポンジチタン廃材の再生技術の展開と応用スポンジチタン廃材の再生技術(4)(1/3 ページ)

本連載では、大阪大学 接合科学研究所 教授の近藤勝義氏の研究グループが開発を進める「スポンジチタン廃材の再生技術」を紹介。第4回では、スポンジチタン廃材の再生技術の展開と応用について解説する。

» 2025年10月29日 07時00分 公開

金属AM法も粉末冶金プロセスの1つ

 連載第1回2回では、スポンジチタンの製造工程内で鉄や酸素などの不純物成分が混入し、それらが結晶粒界近傍に濃化/偏析することでチタンの力学特性の低下を招く課題が、スポンジチタン廃材の再生技術の研究開発を行う背景にあることを紹介した。

 本連載の著者をはじめとする研究グループは、この課題を解決すべく、チタンが融けない高温域において、不純物成分が原子レベルで均一な状態(固溶)でチタン(Ti)結晶内に存在し、そこからの冷却速度を大きく(急速冷却)して上記の成分偏析が解消できること、その結果、鉄や酸素を含むチタン材において高強度と高延性が両立することを実証した。

 これらの研究成果を用いて、スポンジチタンの製造工程において発生する高濃度の不可避的不純物を含むチタン廃材をチタンに再生すべく、非溶解製法である粉末冶金法と急速冷却プロセスの組み合わせを検討した。通常、廃材は数十cmほどの塊(かたま)りであり、これを粉末冶金用原料として100μm未満の微細な粉末へと粉砕するため、水素化合物の生成/分散によってチタン廃材を脆くして効率よく機械粉砕が可能となること、その粉砕粉末を焼結固化して高強度と高延性を兼ね備えたチタン材に再生できることを第3回において紹介した。

 このように粉末冶金法を用いることにより、従来の溶解鋳造法では実現し得なかった微細な結晶組織や優れた力学特性を有する廃材由来のチタン合金の開発に成功した。

 さて近年、国内外で革新的な付加製造技術として、3Dプリンティング製法による新たなモノづくりが始まっている。当時の米国オバマ大統領は、2013年2月に行われた一般教書演説において、3Dプリンティングが全ての製造業に変革をもたらすと言及したことで世界中が同技術に注目し、巨額の予算を投入して研究開発を進めている。

 中でも、CADデータを用いて金属粉末から直接、3次元の複雑形状部品を製造できる金属積層造形(Additive Manufacturing、AM)プロセス[参考文献1]は関心を集めており、既に生産現場で実用化されている。同製法では、金型を用いることなく部品を製造できるとともに、切削加工量の削減による歩留り向上や最適構造設計(トポロジー最適化)に基づく製品の軽量化/安全性向上などの長所が見込まれ、現在は航空機部品や生体医療部材などが生産されている。  

 粉末原料を使用することから金属AM法も粉末冶金プロセスの1つと位置付けることができる。中でも、均一に敷き詰めた金属粉末に対してレーザを照射し、粉末の急速溶融/凝固現象を繰り返すレーザ粉末床溶融結合法(Laser Powder Bed Fusion、LPBF)は、現在の主たる金属AM製法である。著者の研究グループもLPBF装置を導入し、主にチタン系合金を対象に、AM法による材料の高機能化に関する研究を進めている。

 その中において、これまで紹介してきた鉄や酸素、窒素といった不純物成分がAMチタン材の結晶組織や力学特性に及ぼす影響を詳細に解析し、組織形成挙動や強化機構などを明らかにした[参考文献2〜4]。

 最終回となる本稿では、不純物成分の1つである「酸素」を取り上げて、LPBF法で作製した酸素含有チタン積層造形材の結晶構造や引張強度特性について説明し、金属AM製法で作製するチタン材においても酸素は力学特性の向上に有効な元素であることを紹介する。

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