スポンジチタン廃材の再生技術の展開と応用スポンジチタン廃材の再生技術(4)(2/3 ページ)

» 2025年10月29日 07時00分 公開

LPBF法により酸素を含むチタン材を作製する方法

 LPBF法により酸素を含むチタン材を作製する方法に関して、まず使用する原料粉末について説明する。前述の通り、原料Ti粉末を均一に敷き詰めるため、ガスアトマイズ法[参考文献5]を用いて作製した流動性に優れた球形状の純Ti粉末(平均粒子径26.2μm)を使用する。

 酸素供給については、酸化チタンTiO2粒子(平均粒子径0.9μm)を準備し、所定の比率(最大2.0wt.%)でTi粉末に添加した後、回転ボールミルによる乾式混合法を用いてTi/TiO2複合粉末を作製する。混合処理過程において、回転エネルギーによる外力が付与されることで硬質なTiO2微粒子は、軟質な純Ti粉末表面と機械的に強固に結合した状態を形成する。

 得られたTi-2.0wt.%TiO2混合粉末の外観写真の一例を図1に示す。1時間の混合処理を施すことで微細なTiO2粒子は凝集/偏析することなく、純Ti粉末の表面に均一に付着している。その結果、LPBF工程でリコータにより混合粉末を造形ステージに供給する際、せん断力によるTiO2粒子と純Ti粉末の分離を抑制できる。

図1 Ti-2%TiO<sub>2</sub>混合粉末外観の走査型電子顕微鏡写真 図1 Ti-2%TiO2混合粉末外観の走査型電子顕微鏡写真[クリックで拡大]

 次に、LPBF工程での積層造形条件について説明する。造形チャンバー内にアルゴン(Ar)ガスを流入し、酸素濃度を0.01%以下に維持する。既往研究と同様に走査条件として、レーザビーム径(d)=30μm、出力(P)=160W、走査速度(v)=535mm/s、ハッチ幅(h)=110μm、積層厚さ(t)=20μmを選定した。

 造形工程では、粉末1層を積層するごとにレーザの走査方向を90度回転させるX-Yスキャン方式を採用した。また、造形過程で発生する残留応力の影響による試料の反りや亀裂[参考文献6]の発生を抑制する目的で、造形ステージに配置した純Ti製基板上に高さ1.5mmの格子状サポートを作製した後、その上部に混合粉末を供給し、上記の手順によって矩(く)形状素材(図2)を造形した。なお、各試料の相対密度は99.8%以上に達しており、粗大な空孔や内部欠陥などはなく、健全なTi造形体が得られた。

図2 Ti-2%TiO<sub>2</sub>混合粉末から作製したTi-O系造形体の外観 図2 Ti-2%TiO2混合粉末から作製したTi-O系造形体の外観[クリックで拡大]

 TiO2添加量が異なる試料における酸素、窒素および水素の各成分量の測定結果を表1に示す。積層造形体中の窒素量は0.017%以下、水素量は0.007%であり、いずれの元素もJIS規格に定められた工業用純Ti(CP-Ti)のClass1における上限値を十分に下回る結果であった。強化元素となる酸素の含有量に着目し、各混合粉末と造形体に含まれる酸素分析値の相関を図3に示す。

表1 各Ti造形体中の酸素、窒素、水素の含有量 表1 各Ti造形体中の酸素、窒素、水素の含有量[クリックで拡大]
図3 Ti-2%TiO<sub>2</sub>混合粉末外観の走査型電子顕微鏡写真 図3 Ti-2%TiO2混合粉末外観の走査型電子顕微鏡写真[クリックで拡大]

 TiO2粒子の添加量から算出した酸素成分の理論増加量と各試料の分析値の間には、定量的に良い一致が見られており、TiO2添加量によりTi造形体中の酸素量を高い精度で調整できる。

 なお、混合粉末に対して造形体の酸素量は最大で0.07%増加しており、これは積層過程での酸化現象による増分と考えられる。X線回折による構造解析の結果、全ての造形体試料において、添加したTiO2粒子の回折ピークは検出されず、LPBF工程においてTiO2の分解が生じた。その際、酸素量の増加に伴い、素地を構成するα-Ti回折ピークは低角度側に移行した。つまり、分解したTiO2粒子由来の酸素原子がTi結晶内に固溶し、c軸方向に結晶内の格子ひずみが増加したと結論付けられる。この現象が後述する酸素原子の固溶強化によるTi積層造形材の高強度化を促す要因の1つとなる.

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