40年変わらなかったCADが進化 「ニューラルCAD」が示すAI時代の設計の姿とはAutodesk University 2025(3/3 ページ)

» 2025年10月06日 07時00分 公開
[八木沢篤MONOist]
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複雑な建築設計への応用も

 AI Labの別グループの研究として、複雑な建築システムの推論に特化したニューラルCAD基盤モデルも紹介された。グリッド、柱、フロアレイアウト、建築基準など、相互に関連する表現や構造を一貫させる面倒な作業をAIモデルが担う未来像である。

「ニューラルCAD基盤モデル」は製品設計だけでなく、建築設計にも応用されている 「ニューラルCAD基盤モデル」は製品設計だけでなく、建築設計にも応用されている[クリックで拡大] 出所:Autodesk

 例えば、建築デザイナーがマスモデル(建物全体をシンプルな立方体などで表した初期設計モデル)の形状を直接編集すると、ニューラルCAD基盤モデルがフロアプランを自動生成する。廊下や部屋など固定したい要素を拘束し、自然言語のプロンプトで構造材の変更を指示すれば、柱の位置やサイズを再計算して新しいフロアプランを瞬時に作り直す。さらに、マスモデルの形状変更に追随してグリッドが移動し、ビルディングコア(エレベーターや階段室などを集約した建物中央部)が適切に再配置される様子までが示された。将来的には、配管、冷暖房空調設備(HVAC)、照明といった他のシステムもモデルが直接生成する世界を見据えているという。

「複数のAI技術を組み合わせることで、生成AIはこれまで以上に強力なツールとなる。コンピュータが自然言語、スケッチ、3Dデータ、物理、そして業界固有のワークフローを同時に理解できるようになれば、AIが設計者をサポートし、洞察を導く“エージェントアシスタント”として機能する。これによって、私たちが2018年に描いた未来像が、いよいよ現実に近づくのだ」(ヘイリー氏)

 そして将来的には、顧客自身が自社固有のデータやプロセス、ノウハウを活用してAIを学習/調整し、これまで埋もれていた履歴情報を競争優位の源泉に変えていく世界が訪れるという。

 なお、Autodesk Researchのブログによれば、ニューラルCAD基盤モデルは2026年にFusionと建築/エンジニアリング/建設向けの産業別クラウド「Forma」に展開される見込みだという。

製品ロードマップ外の実験的コンセプトも披露

 講演の後半では、製品ロードマップ外の実験的コンセプトも披露された。

 1つ目は、Formaにおける建築ブロッキング支援機能である。これは、建物の基本形状をスケッチや音声で素早く定義できる支援機能であり、デザイナーが“通常の3Dツールに縛られず”、最も自然な方法――タブレット端末を片手にデジタルペンでスケッチし、声で指示する――を取ると、ニューラルCAD基盤モデルが大規模言語モデルと連携して入力を解釈し、Forma内の適切な建物形状に変換する。「ペンを取り、描き、話すだけだ。これほど自然なことはない」とヘイリー氏は語った。

「Forma」を活用した実験的コンセプトの一例 「Forma」を活用した実験的コンセプトの一例[クリックで拡大] 出所:Autodesk

 2つ目は「Project Think-Aloud」と呼ばれるものだ。声に出して考える行為を高度なデータキャプチャーと組み合わせ、設計作業を改善する試みである。設計者が自分の思考を言語化することで、自分では気付きにくい設計上の課題が浮き彫りとなり、AIがリアルタイムでそれを補助する。

 ソフトウェア開発で知られる“ラバーダックデバッグ”から着想を得て開発した、話し返す“アヒル”に対して、「私のデザインについてどう思うか」と投げ掛けると、「鮮やかな色と洗練されたデザインが気に入った。視覚的に魅力的だ。人間工学的な快適さのためにボタンの配置を改良することを検討すべきだ。次のステップにはユーザビリティ確認のためのユーザーテストが含まれるかもしれない。その創造性を生かし続けるべきだ」と返すデモが示された。

「Project Think-Aloud」のイメージ 「Project Think-Aloud」のイメージ[クリックで拡大] 出所:Autodesk

 ユーザーの発話とアセンブリの形状理解を組み合わせてコンポーネント名を自動提案し、一括更新する流れも披露された。ToDoの自動追跡、質問応答、関連ヘルプの表示、インスピレーション提示までを行う。

 ヘイリー氏は「単にマニュアルで言語モデルを学習させた“生成AIサポート”ではない。発話を理解するモデルと、CADオブジェクトの3D構造を理解するモデルを組み合わせている。これは長年のR&Dの成果であり、2018年に想像した未来が到来したことを意味する」と強調した。

⇒ 「メカ設計 イベントレポート」のバックナンバーはこちら

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