現実世界の設計現場では、「CADの中核であるパラメトリックCADのパラダイムは40年間変わっていない」とヘイリー氏は指摘した。寸法のようなパラメーターをキーボードとマウスで定義し、関係と制約を系統的に積み上げる――細部の設計に多大な時間を費やし、重複や手戻りに追われるのが当たり前の世界だ。
では、こうした現実を乗り越え、AI主導の世界へ移行したらどうなるのか。ヘイリー氏は、Autodesk 社長 兼 CEO(最高経営責任者)のアンドリュー・アナグノスト(Andrew Anagnost)氏がゼネラルセッションで語った「プロジェクトそのものがニューラルネットワークのように振る舞う世界」について触れ、従来のパラメトリックエンジンを“ニューラルCADエンジン”で強化するという方向性を示した。
ディープラーニング技術を土台に、設計の複雑さを直接推論し、精度と制御を両立させながら、全く新しい表現と対話を導入する――これが同社の示すニューラルテクノロジーの姿だ。そして、「ニューラルCAD基盤モデルは学習と改善を繰り返し、ユーザーのニーズや作業方法に絶えず適応していく」(ヘイリー氏)という。
講演では、ニューラルCAD基盤モデルが既に実用レベルのCADオブジェクトを生成できる段階にあることが明らかにされた。これは、AIが出力したデータが単なるイメージや3Dスキャンではなく、製造業向けの産業別クラウド「Fusion」のCAD上でそのまま編集できる完全なCADデータであることを意味する。講演で示された電動ドリルの事例では、AIが生成したモデルが即座にFusionで操作でき、設計者が自分でモデリングしたかのように履歴などを保持した状態で活用できることが示された。
一方、こうした高品質なCADモデルをAIで生成することは、非常に難易度が高い。3D CADデータは2D画像やテキストとは異なり、サーフェスやエッジ、トポロジーなど複雑な構造を持つ。わずかな誤差でも製造できない形状になり、実務で使えるデータとはならない。そのため、従来の画像生成AIで使われてきた一般的なニューラルネットワークでは対応できず、オートデスクはCAD専用に最適化した新しいニューラルネットワークアーキテクチャを一から設計する必要があったという。
この新アーキテクチャにより、AIは3D形状そのものだけでなく、パラメーターや操作履歴まで同時に生成できるようになり、設計者がすぐに使える実用的なCADデータの生成が可能となった。ヘイリー氏は「この成果がAIを本格的に“Design/Make(デザインと創造)”の現場へ活用するための鍵となる」と強調した。
ニューラルCAD基盤モデルの体験は、コンセプト探索から始まる。プロダクトデザイナーが電動ドリルの新デザインを検討する場面を例に、プロンプトを入力すると瞬時に多様な設計案(編集可能なCADモデル)が生成される様子が示された。背後では深層ネットワークがサーフェス、エッジ、トポロジーを直接推論しており、複数案のトレードオフ比較が高速に行われる。
生成された成果物(CADモデル)はFusionで直ちに編集可能であり、新しいハンドル(持ち手)をスケッチで与えれば、AIがそれを解釈して3Dパーツを正確に位置合わせして生成する。しかも、作成に用いたFusionコマンドの履歴とシーケンスまで自動生成され、あたかも自分でモデリングしたかのように後から編集することができる。「コンセプトからデザイン開発への移行で、異なるソフトウェアにまたがる面倒な“作り直し”はもういらない」とヘイリー氏は述べた。
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