130人の声が示すPLCの“現在地” 製造現場が抱える課題、期待を分析PLCの現在 過去 未来(2)(3/5 ページ)

» 2025年09月11日 08時00分 公開
[岡実MONOist]

現場が期待する、PLCの進化の方向性

 こうした根深い課題がありつつも、現場はPLCの未来に具体的な進化を期待しています。「今後、PLCにどんな機能・進化を期待しますか?」(図6)という問いへの回答から、前章の「3つの壁」を乗り越えるための、進化の方向性が見えてきました。

図6 今後PLCに期待する機能・進化(Q7) 図6 今後PLCに期待する機能・進化(Q7)[クリックで拡大]

「つながり、賢くなる」方向への進化:データ活用の本格化

 最も期待が高かったのは「クラウド/IT連携」(52人)で「AI連携」(47人)が続きます。

 現場のデータを活用し、生産性や品質向上や予知保全につなげたいという要望が高いことがうかがえます。PLCを単なる「制御装置」としてだけでなく、現場データを生み出す「現場データ生成機」や「現場情報ゲートウェイ」として捉え、ITシステムと円滑に連携させたいという思いが伝わってきます。

「現場の状況や人の動きをセンサーで感じ取り、最適な動きを“自律的に選択”できるPLCを期待しますね」

「デジタルツインと融合して実機インストール前にシミュレーション環境でデバッグするなど、エンジニアの属人性解消や働きやすさ向上につながってほしい」

「OTとITの橋渡し役として今後も活用されてほしい」

(自由記述より抜粋、以下同)

「誰でも使える」方向への進化:属人化の解消へ

 「プログラムの自動生成・ノーコード化」(46人)も非常に高くなっています。これは、前章で見た「人の壁」に対する現場からの具体的な期待です。特定個人のスキルに依存する現状から脱却し、誰でも一定品質の制御を効率よく実現できる仕組みを整えなければ、日本のモノづくりが立ち行かなくなるという危機感が表れているように思えます。

「生成AIによるコード生成に期待」

「コードベースのプログラムからラダーへ変換できるようになれば、汎用LLM(生成AI)でも生成できるようになり、さまざまな自動化が行えるのでは......と妄想しています」

「学習のハードルがもっと低くなってほしい。e-LearningやYouTubeを活用したエントリーユーザー向けの解説を充実させていただきたい」

「オープンになる」方向への進化:あるべきエンジニアリング環境へ

 「互換性向上」(43人)は、ここでも重要なキーワードとなります。これは、単なる現状への不満の裏返しではなく、メーカーの都合に縛られることなく、プロジェクトにとって最適な機器を自由に組み合わせて選定する手間を減らした上で、設計本来の創造的な活動に時間を使いたいという、技術者の前向きな願いなのだろうと感じます。

「フィールドネットワークを統一できたら良いなと思っています。理想のマスターと理想のスレーブがあっても通信規格が合わず部品の選定に苦労してしまうことがあるので」

「ローコード化で各メーカー互換を望みます」

 ローコード化は専門的なプログラミングを最小限に抑え、ノーコード化はプログラミングを全く用いず、いずれも画面上で部品を組み合わせるように開発を進める手法のこと。これにより、開発の迅速化や、より多くの人が開発に参加できることが期待されています。

現場の声から考える、PLCのこれから

 最後の「今後、PLCはどうなると思いますか?」(図7)という問いには、「今のPLCが進化・拡大する」(53.1%)が、「IPC(産業用PC)などに置き換わり縮小する」(37.7%)を上回りました。現場はPLCの“衰退”ではなく、“進化”を信じていることが伺えます。

図7 「今後、PLCはどうなるか?」(Q8)の回答 図7 「今後、PLCはどうなるか?」(Q8)の回答[クリックで拡大]

 自由記述には、その理由としてPLCの本来的な価値を評価する声が多く見られました。

「PLCの堅ろう性や信頼性に取って代わる物はないので今のPLCが進化、発展していくのでは」

「長年のPLCの使用実績が生産現場で高く評価されていることから、PLCの市場の縮小は考えにくい」

 一方で、PLCの進化を現実的に見つめる声も印象的です。それらの声は「PLCか、IPCか」という二者択一の議論ではなく、「適材適所」と「すみ分け」という現実解をイメージさせます。

「PLCの信頼感は頼もしい。でも、かゆいところに手が届くような柔軟さもほしい。そんなとき、AIやビジョン(画像処理)までこなせるIPCが、現場でいい仕事してくれるんです」

「安価な価格帯はPLCが残りハイエンドはIPCになると思う」

 これらの声からは、PLCの得意な「リアルタイム制御」と、IPCの得意な「高度な情報処理や柔軟性」を組み合わせるハイブリッドな未来や、コストや要求仕様に応じて両者が市場で二極化していくという、冷静な視点が感じられます。

 最後に、本稿の土台となる貴重な声をお寄せくださった130人の皆さまに、この場を借りて心よりお礼を申し上げます。本当にありがとうございました。今回、皆さんの声を「壁」と「期待」という形で整理してみましたが、この記事を読んでくださっている皆さんの実感と、重なる部分はあったでしょうか。

 現場が抱える「壁」と、未来への「期待」。そして、PLCとIPCの現実的な関係性。これらを突き合わせた時、PLCが本当に進むべき道が見えてくると感じます。最終回では、これらの声を踏まえ、「これからのPLC」が向かうべき未来像を具体的に描いていきます。 (次回へ続く)


 次ページ以降では、アンケートに寄せられた自由回答の内容を紹介する。現場からのリアルな声として、ご参照いただきたい(一部表記などはMONOist編集部で修正)。

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