生成AIの設計業務への活用は大きな期待を集めているが、同時に知的財産権に関する懸念を生み出している。そこで、これらを守りつつ、生成AIを設計に活用できるようにする仕組みに注目が集まっている。ベンチャー企業のFinal Aimは「AI博覧会 Summer 2025 東京」でデザイン/知財管理プラットフォーム「Final Design」を出展し、多くの来場者から関心を集めた。
生成AI(人工知能)があらゆる業務を変革する中、設計業務の効率性を改善する生成AIの活用に注目が集まっている。しかし、AIが学習データを基に設計データを生成するようになると、知的財産権の侵害が発生するリスクが生じる。そのため、多くの国内製造業では、設計業務で生成AIを活用することに二の足を踏んできた。
そこで、こうした知的財産権の問題を解消し、安全に生成AIを活用したデザインを実現できる仕組みを開発したのが、2019年創業のベンチャー企業であるFinal Aimだ。「AI博覧会 Summer 2025」(2025年8月27〜28日、東京国際フォーラム)に出展した同社代表取締役社長の朝倉雅文氏に話を聞いた。
Final Aimは、2019年12月に創業し、生成AIによる新たなデザイン開発や知的財産権の管理に対応したデザイン/知財管理プラットフォーム「Final Design」を展開するベンチャー企業だ。現在は米国デラウェア州に本社を置いている。
Final Designは、デザインデータから契約書、知財データに至るまで全ての重要データを一元管理するプラットフォームだ。業務内で分散している最終デザインやその途中経過、契約書、知的財産といった重要データを、削除や改ざんができない形式で一元管理し、信ぴょう性や真正性を確保する。さまざまなベンダーの最新の生成AIツールやCADツール、PDM(Product Data Management)ツールとAPI(Application Programming Interface)などを介してシームレスに接続可能で、あらゆるコンテンツ制作プロセスで、知的財産を保護しながら、生成AIツールを安心して利用できる。
ブロックチェーン技術などを採用し、データは安全に認証され、改ざんを抑制できる他、トレーサービリティを確保している。さらに、世界トップクラスの法律事務所による監修を受け、知的財産リスクに対応した仕組みを取り入れている。これらにより、所有権と権限が明確に定義された安全なデータ共有を実現する。
生成AIの知的財産権問題に目を付けた点について、朝倉氏は「生成AIそのものの競争は過熱しているが、生成AIを使うために必要な周辺環境を見ると足りない部分も多い。設計業務で生成AIを使おうとすると、必ず知的財産権の問題に突き当たる。そこを解消できないかを考えた」と述べる。
製造業にとって設計業務で生成AIを活用し、効率化を図りたいというニーズは強いが、企業としての独自のデザイン性を反映させた形で、デザインを生成するためには、自社の過去の設計物を学習させる必要がある。さらに、生成された設計データが、知的財産的に問題ないことを証明する必要もある。従来は、これらが難しかったため、多くの製造業では設計業務で直接生成AIを活用して設計物を制作することを禁止にしてきたところが多かった。
しかし、Final Designを使用すれば、設計されたものが、どういう情報を使ってどのような経緯で制作されたのかを、保証できる。そのため、設計業務で生成AIを取り入れる過程で、併せてFinal Designを採用するケースが多いという。朝倉氏は「特に自動車メーカーや二輪車メーカーなどからの引き合いが多く、主要メーカーのほとんどから話をいただいている。その他も、デザインそのものが製品価値に大きな影響を与える製品を扱っている製造業から高い関心を持ってもらえている」と説明する。
Final Aimは本社を米国に置いており、グローバルで展開しているが、設計業務での生成AI活用という点では、日本が当面は主戦場だと朝倉氏は訴える。「他の分野では生成AI活用が遅れていると指摘されることもあるが、インダストリアルデザイン領域のAI活用は日本が世界でも先行している。Final Designも実際に日本企業からの引き合いが多い」と朝倉氏は語る。
今後は認知度を高め、設計業務での生成AI活用における必須の技術として提案を進めていく考えだ。既にヤマハ発動機やホンダなどで導入実績もあるが「認知度はまだまだ高めていく必要がある。当社の技術を使うことで、設計業務でも生成AIの価値を安全に享受できるようになる。日本の製造業の競争力につなげていきたい」と朝倉氏は述べている。
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