東北大学は、融点が高いタングステンのるつぼを用いて、これまで困難だった2200℃以上の高温で、高機能な酸化物単結晶を作成する技術を開発した。高融点の酸化物単結晶の新物質探索や量産製造への貢献が期待される。
東北大学は2025年8月7日、融点が高いタングステン(W)のるつぼを用いて、これまで困難だった2200℃以上の高温で、高品質な酸化物単結晶を作成する技術を開発したと発表した。高融点の酸化物単結晶の新物質探索や量産製造への貢献が期待される。
半導体や電子機器などで使われる機能性単結晶の一部は、イリジウム(Ir)や白金(Pt)製るつぼを用いた単結晶成長で材料開発、量産製造している。これらの貴金属るつぼは、使用温度が2200℃以下のため、高融点材料の探索や量産製造には適していなかった。
一方、Wは高温でも使用可能だが、結晶成長中の酸化物と反応したり、結晶内への混入が課題となっていた。研究グループは、これらの問題が周囲の断熱材から放出される酸素に起因すると特定。酸素放出を抑えるため、脱酸素断熱材とWるつぼを用いた結晶成長技術を構築し、高品質な高融点酸化物の単結晶成長に成功した。
この単結晶成長技術により、融点が2200℃以上のタンタル酸ルテチウム(Lu3TaO7)、ハフニウム酸ランタン(La2Hf2O7)、ジルコン酸ランタン(La2Zr2O7)の単結晶を作製できた。特にLu3TaO7は約9.7g/cm3と高密度で、これを用いたシンチレーターは、チェレンコフ発光を活用した高速シンチレーターとしての利用が期待される。
他に、酸化スカンジウム(Sc2O3)や酸化ルテチウム(Lu2O3)などの希土類セスキオキサイド、スカンジム酸ガドリニウム(GdScO3)などの希土類ペロブスカイト、スカンジウム酸イットリウム(YScO3)などのビックスバイト系の単結晶育成にも成功。これらは、高温での高精度な温度測定や格子定数を調整した単結晶基板などに応用できる。
今回の研究では、融液から棒状の単結晶を作成するマイクロ引き下げ(μ-PD)法により、直径2〜3mmのファイバー状単結晶を作製できた。数インチの大口径単結晶を製造できるチョクラルスキー(Cz)法にも応用できると考えられ、Wるつぼと脱酸素断熱材を用いた新たなCz法の確立により、高融点の酸化物単結晶の量産が期待される。
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