1980年代からは、移動や運搬の課題解決の取り組みが始まった。アフリカの二輪車市場は2024年時点で400万台後半に拡大。市場の6割を占めるのが、バイクタクシーやデリバリーなどの業務用での需要だ。バイク1台分の資金で手に職を持つことができ、家族を養う収入源となる。そこで、二輪車には燃費の良さや耐久性、リーズナブルな価格が求められる。
アフリカ参入初期から展開している「AGシリーズ」「DTシリーズ」は、UNICEF(国際連合児童基金)を含む国連機関や政府に納入実績がある。政府職員の巡回や、村落部に医薬品や医療従事者を運ぶ手段として活用されている。1990年代以降は、警察向けのバイクや高速警備艇なども導入が増えている。
両シリーズは軽量で高出力なためオフロードでの走行に向く。取り回しの良さも支持されているという。頑丈な構造と信頼性の高いパーツにより長期間にわたって使用できる他、部品点数の少なさや部品の入手しやすさでメンテナンス性も高めている。
2020年にはモビリティサービス事業も開始した。パートナー企業とともに、ナイジェリアやインドではモビリティアセットマネジメントを、ウガンダやタンザニアではラストマイルデリバリーを提供している。車両を使った仕事を希望しているが、車両の購入や金利の負担、レンタルが経済的に困難なユーザー層に向けて、パートナー企業を通じて車両と仕事を提供する。ユーザーはパートナー企業に利用料や燃料代を支払うというビジネスモデルだ。
これまでは親戚などから現金を集めてバイクを購入するユーザーも多かったが、現地通貨安が進むことで現金での購入が難しくなっている。また、中国やインドの二輪車メーカーとの価格競争にヤマハ発動機は苦戦してきた。所有せずに使用料を払ってバイクを利用できるようにするモビリティアセットマネジメントによってユーザーを取り込む。
モビリティアセットマネジメントでは、燃料代を抑えられればユーザーの手取りが増えるため、燃費の良さも武器になる。バイクを提供するパートナー企業にとっては、ダウンタイムを少なくするための耐久性の高さや、故障しても部品があり、整備士が対応できることも重要になるため、日本メーカーとしての強みが生かせると見込む。
パートナー企業は通信販売などEC(電子商取引)事業者向けに配送サービスを提供し、ドライバーの雇用を創出する。スマートフォンやインターネットが普及してきた中、EC市場が発展するには効率的なデリバリー事業者が不可欠だ。住所システムの整備が十分でない地域でも、ITを活用して玄関先まで確実に配送できるようにする。
ナイジェリアにおけるモビリティアセットマネジメントの運用台数は、二輪車と三輪車の合計で2.1万台。ウガンダやタンザニアのラストマイルデリバリー事業は、2024年に月間5000件の宅配を実施し、年間では6万件に上る。2025年は月間1万件ペースに伸長しているという。
ヤマハ発動機は浄水システムも展開している。安全な水の確保が難しい地域向けに、アフリカを含め世界で55基を設置した。ODA(政府開発援助)を通じてサプライヤーとして相手国に販売し、設置作業や運営のトレーニング、フォローアップも担う。
浄水システムの設置が与えた影響を「インパクト加重会計」で試算すると、2011〜2023年に設置した37基の合計で1540万ドルの社会的インパクトがあったという。受益者はアフリカや東南アジアの11カ国で3万9000人。水くみ労働の時間削減や、下痢などの体調不良で働けない期間の減少により、1人当たりの年間期待収入は5〜8%改善するとしている。
世界では基本的な飲み水(外部からの汚染から保護された水源による飲み水で、自宅から往復30分以内で入手できる)を利用できない人口が7億300万人に上るとされており、その半数以上がサハラ以南のアフリカ地域で暮らしている。水の入手に自宅から往復30分以上かかったり、外部からの汚染から保護されていない水源の水を使わなければならなかったりする状況だ。外部からの汚染から保護されていない水源には川や湖、池などがあり、そこから直接得た水(地表水)をそのまま生活に使用する人口は1億1500万人だとUNICEFは試算している。
ヤマハ発動機は、地表水のろ過システムを提供している。大きな電力や特殊な薬品を使わず、生物ろ過膜や砂層、砂利層などを通して水をろ過する。消耗品や交換が必要な部品がなく、技術者によるメンテナンスが不要であることから導入しやすい。また、地下水など自然の水浄化の仕組みを応用しているため環境負荷も低い。衛生状態の改善による病気の予防に加えて、水くみに時間を奪われていた女性や子どもが別の生産活動や勉強に取り組めるようになるというメリットもある。
浄水システムを設置/メンテナンスしている地域には、スポーツ用品の寄付も行っている。ケニアなどではラグビーが人気で、道端に落ちているものをボール代わりにはだしで遊ぶ子どもが多いという。2023年からラグビーチームの静岡ブルーレヴズと協力して試合会場でスポーツ用品の寄付を募り、スポーツウェアやラグビーボールなど累計1410点をケニアの4カ所の村に届けた。
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