ヤマ発が精密農業を新事業に、スタートアップ投資中心で自社技術にこだわらずスマートアグリ

ヤマハ発動機は、新事業として展開を進めている精密農業や農業自動化の子会社の体制について説明した。

» 2025年02月26日 06時15分 公開
[朴尚洙MONOist]

 ヤマハ発動機は2025年2月25日、オンラインで会見を開き、新事業として展開を進めている精密農業や農業自動化の子会社の体制について説明した。ロボットソリューションと高度なデータ解析を組み合わせてワイン用ブドウやリンゴなど果樹園における農作業の効率化を目指しており、北半球の米国西海岸と、南半球のオーストラリアとニュージーランドで年間を通して実地での研究開発を進められる体制を構築し、早期の事業規模拡大を目指す。

 同社の精密農業/農業自動化の取り組みを統括しているのが、米国カリフォルニア州パロアルトに本社を置くYamaha Agricultureだ。ヤマハ発動機の100%子会社として、2024年4月に設立され、同年7月から一部事業を開始している。Yamaha Agricultureは事業統括の他、販売とマーケティングの機能を備えている。同社の傘下で技術開発を担うのが、オーストラリアのシドニーに本社を置くYamaha Agriculture Australiaと、ニュージーランドのタウランガに本社を置くRobotics Plusの2社である。

ヤマハ発動機の農業事業の体制 ヤマハ発動機の農業事業の体制[クリックで拡大] 出所:ヤマハ発動機

 Yamaha Agriculture Australia(YAA)には、2024年7月にヤマハ発動機が買収したThe Yield Technology Solutions(The Yield)の資産が継承されている。The Yieldは、高度なデータ解析とAI(人工知能)により収量予測を行う他、薬剤散布、収穫などのタイミングの決定を支援して農場内外の作業を最適化するソリューションを提供していた。ヤマハ発動機は2021年にThe Yieldとスマート農業に関する共同開発契約を締結し、データ収集/活用とロボティクス技術の組み合わせによる農業のスマート化を狙いとした共同開発を行ってきた。

 Robotics Plusは、ロボット工学、オートメーション化および解析技術をベースとした農業分野の自動化ソリューションを開発している。農薬などの散布に加え、除草などの機能を備えた農業用UGV(無人地上車両)や、果物の自動パッキング機、木材丸太の自動計測装置の開発実績がある。ヤマハ発動機は、農作業を自動化する技術の開発強化と、農業テクノロジー分野の事業開発を目的に2017年からRobotics Plusに出資している。そして、このたびRobotics Plusの買収について合意しており、2025年4月の買収完了を見込む。

Robotics Plusの農業用UGVを使った農薬散布の様子 Robotics Plusの農業用UGVを使った農薬散布の様子[クリックで拡大] 出所:ヤマハ発動機

 Yamaha Agricultureが事業統括することになるヤマハ発動機の農業事業は、本社を置く米国西海岸に加え、YAAのあるオーストラリア、Robotics Plusのあるニュージーランドにおけるワイン用ブドウやリンゴなど果樹園向けの市場開拓に注力していく方針。現在最も取り組みが進んでいるワイン用ブドウの場合、毎週適切なタイミングで農薬散布する必要があるが、気象データを基にThe Yieldの技術でタイミングを分析し、Robotics PlusのUGVによって自動散布することが可能だという。The Yieldの技術により収穫時期などの分析も行える。この技術は既にリンゴ向けに横展開しており、他の果物や野菜といった特殊作物への適用も検討している。

ヤマハ発動機の青田元氏 ヤマハ発動機の青田元氏

 ヤマハ発動機 執行役員 経営戦略本部長(CSO)の青田元氏は「穀物と比べて、果樹園などの非穀物系は農業の自動化はまだそれほど進んでいない。穀物では大型農機を使って自動化しているが、果樹園の自動化ではより小型のソリューションが必要になる。大型農機から小型のソリューションを開発することは難易度が高く、大手農機メーカーもまだ進出できていない。一方、小型のパーソナルモビリティを手掛ける当社だからこそ開発できるソリューションがあり、十分に勝機があると考えている」と語る。

 また、Yamaha Agricultureが事業統括する体制では、北半球の米国西海岸、南半球のオーストラリア、ニュージーランドで並行して開発を進められることが重要だという。基本的に1年間のサイクルで生産を行う農業の場合、新たな技術の開発と評価のサイクルも1年間で固定されてしまうことが多い。北半球と南半球に拠点を分散することで、このサイクルを半年に短縮できるようになる。

 なお、ヤマハ発動機にとって新事業に当たる農業事業は、自社で開発した技術は中核に置いておらず、スタートアップへの投資を中心にヤマハ発動機の知見やノウハウを生かして規模拡大を目指していく位置付けとなっている。実際に、かつては収穫系の農業ロボットを自社開発していたが、今回の農業事業の体制にそれらは組み込まれていない。青田氏は「今回の取り組みを、投資によって新事業を作り出していく事例にできれば」と述べている。

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