Helical Fusionは、東京都内とオンラインで記者会見を開催し、ヘリカル型核融合炉の実用発電計画「Helix Program(ヘリックス計画)」を発表した。
Helical Fusionは2025年7月11日、東京都内とオンラインで記者会見を開催し、ヘリカル型核融合炉の実用発電計画「Helix Program(ヘリックス計画)」を発表した。
Helical Fusionがヘリカル型核融合炉の開発と商業化を目標とする背景にはエネルギーを取り巻く複数の課題がある。例えば、現状の発電施設/設備は電力の創出で、「温室効果ガス(GHG)の排出」「燃料の有限性/偏在性」「安全性」「環境依存性/環境負荷」のいずれかの問題を抱えている。
これらの問題を解消する手段として核融合発電が注目されている。Helical Fusion 代表取締役 CEOの田口昂哉氏は「エネルギー自給率は、米国が100%、中国が80%、ドイツが30%、日本が15%となっている。エネルギー自給率が低い日本にとって、安全で効率的にエネルギーを創出できる核融合炉の開発は大きな意義がある」と強調する。
核融合発電は、超高温かつ高密度の環境に水素同位体を閉じ込めることで生じる核融合反応で発生する大きなエネルギーを発電に活用する次世代型の発電方式となる。この発電方式は、三重水素や重水素を超高温かつ超高圧で加熱しプラズマ状態として双方の原子核を衝突させ合体させることで核融合反応を起こし中性子を発生させる。その中性子からブランケットを通して熱エネルギーを抽出し発電に利用する。
なお、重水素と三重水素の核融合は同じ質量の石油の燃焼と比べて約1500万倍のエネルギーを創出するとされている。Helical Fusionが核融合発電炉で採用するヘリカル型は、ヘリカルコイル、プラズマ、ポロイダルコイルから成り、トカマク型と比べてプラズマ性能は劣るものの、プラズマ保持時間が長く恒久的な稼働に適している。
田口氏は「ヘリカル型とトカマク型は、どちらもドーナツ状のプラズマを磁場で閉じ込める点は共通しているが、プラズマをねじる方法が異なる。ヘリカル型は、コイル自体をねじることで安定した磁場を生成し、手動でプラズマに電流を流す必要がないため、定常運転が可能で燃費が良い。加えて、ヘリカル型の構造は複雑で構築が難しいという意見もあるが、当社は柔軟な超電導ケーブルを開発したことで、大型ヘリカル装置(LHD)でその構造を既に実現している。一方、トカマク型は、コイルに加えてプラズマ自身にも電流を流すことでねじれた磁場を生成するが、このプラズマ電流を流す現状の技術が数秒しか持続しないなどの課題があり、定常運転が困難な状況にある」と解説した。
Helical Fusionは、既にヘリカル型核融合炉の設計やプラズマの実証が完了しており、実用発電に向けた課題は「ブランケットの開発」と「核リアクターの小型化と高性能化」のみとなっている。
ブランケットは、核融合反応で発生する中性子を受け止め、そのエネルギーを熱に変える金属壁で、内部に充填された液体金属内のリチウムで生じる核反応を通じてトリチウム(三重水素)を生産する。しかし、高エネルギーの中性子に直接さらされるため、核融合炉で一番傷みやすい部品だ。そのため、ダメージに対する耐久性の確保が課題となっている。加えて、ブランケットの炉壁材料は、中性子により放射化しにくく、かつプラズマの閉じ込めに影響を与えないように低い磁性が求められる。
そこで、Helical Fusionは、三井金属とともにブランケット材料を、助川電機工業と共同で液体ブランケットシステムの開発を進めている。
田口氏は「当社は、ブランケットにおける液体金属の循環や固体材料との相性を実証する試験装置『ギャロップ』を2025年3月に導入し、試運転を行っている。これにより、3〜5年をかけてブランケットの実証完了を目指す。ブランケットの液体金属にはスズをベースにリチウムと鉛を混ぜた合金を検討しており、メインの炉壁材料には東北大学と共同で開発している低磁性の低放射化高マンガン鋼を第1候補と考えている」と述べた。
プラズマを閉じ込める部分である核融合リアクターは既存の技術では大型化し、コストが高くなる傾向にある。そこで、Helical Fusionは、フジクラの高温超伝導テープ線材を用いた柔軟な高温超伝導ケーブルや菱輝金型工業のコイルケース、金属技研の高温超伝導導体/コイルの製作技術などを活用し、開発を進めている二重らせん状のコイル「ヘリカルコイル」により、核融合リアクターをコンパクト化し、コストカットを推進している。これにより、商用化可能なレベルでヘリカル型核融合炉の実現を目指す。
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