イチから全部作ってみよう(21)ソフトウェア開発の見積もりは「KKD」がカギに山浦恒央の“くみこみ”な話(190)(3/3 ページ)

» 2025年06月24日 08時00分 公開
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4.なぜ見積もりが難しいのか

 さまざまな不確定要素があるなかで、精度の高い見積もりをすることは簡単ではありません。場合によっては、決められた期間では終わらず、赤字になることもあるでしょう。なぜ見積もりが難しいかを以下に示します。

4.1 発注側との認識の相違

 ソフトウェアは、建造物のように完成形を目で見ることは困難です。よって、プログラムは、発注側から見ると、「何でも簡単に実現できる魔法の箱」と見えがちです。例えば、「この画面ぐらいすぐできるよね」などの楽観的な要求が来ることも少なくありません。このような認識のズレが見積もりの難しさを増大する要因となります。

4.2 事前情報がほとんど得られない

 見積もりは、要求仕様フェーズ確定前に行うケースがほとんどです。この段階では、詳細な要求が定まってないため、精度が高い見積もりが非常に困難です。最終的に、「度胸」による判断で決定していることが実情でしょう。

4.3 途中で話が変わる

 要求仕様書をきっちり作っていても、発注側の都合や方針変更により、仕様変更となることが少なくありません。ヒアリングで「これもついでにお願いします」と軽い気持ちでお願いされることが少なくなく、うっかり「了解です」と答えると、「機能追加」となります。追加や変更規模によっては、手戻りや追加人員の配置をする必要があり、当初の見積もりから逸脱する要因となります。

5.終わりに

 今回は「見積もり」をテーマとして、その概要とざっくりとした手順を解説しました。見積もりの具体的な作業は、まず開発項目を把握し、ソースコードの行数を大ざっぱに計算し、勘と経験と度胸(KKD)で必要な人月を見積もります。そのうえで、エンジニアの単価を掛け合わせた金額で決定します。

 見積もり自体はシンプルですが、精度の高い見積もりをすることは非常に困難です。場合によっては、見積もりの失敗によって、会社が倒産する可能性もあります。

 ソフトウェアエンジニアではない方にとって、ソフトウェアの見積もりはイメージしにくいかもしれません。しかし、このような業務もソフトウェア開発の重要な業務です。学生のように、好きなだけ時間をかけられるプログラミングは、「ビジネスとしてプログラム開発をしている一般プログラマー」には、非常にうらやましく思えます。時間とコストを無限に投入することで、研究としてのプログラミングが進化するのです。

 ソフトウェア開発では、プログラミングだけでなく、見積もりの技術や技法も含めた「開発全体」に目を向けていただければと幸いです。

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【 筆者紹介 】
山浦 恒央(やまうら つねお)

人間環境大学 環境情報学科 教授(工学博士)


1977年、日立ソフトウェアエンジニアリングに入社、2006年より、東海大学情報理工学部ソフトウェア開発工学科助教授、2007年より、同大学大学院組込み技術研究科准教授、2016年より非常勤講師。2025年4月より、人間環境大学環境情報学科教授。

主な著書・訳書は、「Advances in Computers」 (Academic Press社、共著)、「ピープルウエア 第2版」「ソフトウェアテスト技法」「実践的プログラムテスト入門」「デスマーチ 第2版」「ソフトウエア開発プロフェッショナル」(以上、日経BP社、共訳)、「ソフトウエア開発 55の真実と10のウソ」「初めて学ぶソフトウエアメトリクス」(以上、日経BP社、翻訳)。


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