ものづくり新聞 どうすれば、靴の中で足が滑らなくなるのでしょうか?
西垣さん 「編み込み滑り止め」という技術を使っています。これもうちの特許技術なんですよ。
分かりやすくこちらの靴下(以下、写真)で説明すると、この白い部分、これが合成ゴムなんです。それも、被覆されていない、いわゆる“裸の合成ゴム”です。通常、繊維に使われているゴムというのは、全て被覆されているんですよ。
被覆というのは、ゴムの周りを滑りやすい繊維で覆うことをいいます。そうすることで、機械が通りやすくなります。裸のゴムというのは滑らないので、機械の中で引っ掛かって止まってしまうんですよ。
ところが、うちでは、この“裸の合成ゴム”を滑り止めとして使うために、あえて被覆せずに靴下に直接編み込んでいるんです。ここを触ってみてください。動かないでしょう?
ものづくり新聞 あ、本当ですね! 全然違います。全く動きません。
西垣さん 体重がかかればさらに動かなくなります。これがゴムの力なんです。このゴムの力は、実は足で蹴るときにも使われているんですよ。
白っぽいゴムがまばらに見えるのは、靴下の裏側にもゴムが編み込まれているためです(以下、写真)。靴下の裏にゴムがあることで、靴下と足が滑らなくなります。その結果、靴下の中でも足がほとんど動かなくなりますし、靴の中でもしっかり止まるんです。
このように、内側と外側の両方から滑らないようにすることで、足はとても楽になります。「クッション」と「滑り止め」、この2つの効果が合わさることで、疲れにくさにつながっているんですよ。
西垣さん 脱げやすい靴下って、どう思いますか? やっぱり嫌ですよね。靴下が脱げやすかったら、これまでお話ししてきたような疲れにくさの工夫も、全て台無しになってしまいます。
今回の万博用の靴下は、スニーカーソックスで、丈が短いタイプがご希望だったんです。だからこそ、脱げにくくするために、ものすごく工夫を凝らしました。
ものづくり新聞 具体的に、どのような工夫ですか?
西垣さん 踵を見てください。普通の靴下は、この踵の部分が真っすぐになっているんです。でも、ここに角度を少し加えると、どうなると思いますか? 踵がより深く入るんです。深くフィットすれば、それだけ脱げにくくなりますよね。
それから、踵の上部と口ゴムの辺りもポイントです。
裏側は、こういう縫い方をしているんです(以下、写真)。この部分は伸びないので、ここでキュッとしっかり止まります。これは「W(ダブル)ヒールロック」という特許構造なんです。丈の短い靴下でも脱げにくくするために、ランナー向けの靴下を参考にして開発しました。
つまり、この万博の靴下には、3つの特許技術が使われているんです。「クッションの特許」「滑り止めの特許」、そして「脱げにくい特許」。奈良の靴下メーカーが初めて取得した発明の技術が、この1足に生かされているんですよ。
安く作ることが目的じゃないんです。「いいものを履いていただくことで、皆さんに認知してもらおう。奈良の靴下、日本の技術を認知してもらおう」という思いで、今回の取り組みを行ったんです。
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