東京大学は、スーパーハイドライドと呼ばれる超高密度水素化物の合成過程を理論的に解明した。第一原理計算を模倣する機械学習ポテンシャルを構築し、分子動力学シミュレーションによって原子レベルで解析した。
東京大学は2025年6月5日、「スーパーハイドライド」と呼ばれる超高密度水素化物の合成過程を理論的に解明したと発表した。東北大学とケンブリッジ大学との共同研究で、第一原理計算を模倣するML(機械学習)ポテンシャルを構築し、分子動力学シミュレーションによって原子レベルで解析した。
水素含有量が非常に高いスーパーハイドライドは、水素貯蔵材料として注目されている。しかし、合成には数十ギガパスカル(GPa)の高圧が必要で反応の制御が難しく、高圧下における熱分析などの手法が限られていることが、反応メカニズムの分析の妨げとなっていた。
研究グループは、水素の含有量が異なるデータや高温での不安定な構造をあらかじめデータとして取り込み、反応過程に出現し得る不安定な構造を含めて学習したMLモデルを構築。未知の反応経路にも対応し、暗黙的に反応中の構造を再現できるようになった。
このMLモデルを用いた分子動力学シミュレーションで、カルシウム水素化物(CaH2)がカルシウムスーパーハイドライド(CaH4)に変化する過程を再現したところ、高温、高圧環境下ではCaH2の表面が一時的に液状化することが分かった。液体状態では水素の動きは速く、水素を効率的に取り込める。水素化反応が終了すると、安定なCaH4の固相が形成された。
今後、圧力と水素化反応によって引き起こされる反応メカニズムの解明により、スーパーハイドライドの実用化に向けた、精密制御が期待される。また、水素貯蔵材料の未知反応の予測と再現を可能としたMLモデルは、合成可能性の探索に寄与する。
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