東北大学は、固体と液体の中間の性質を持つ柔粘性結晶が、電気に対して分子の向きと形の変化によるニ段階の応答を示すことを発見した。従来の記憶素子よりも多くの情報を扱える、多値メモリへの応用が期待される。
東北大学は2025年5月23日、固体と液体の中間の性質を持つ柔粘性結晶が、電気に対して分子の向きと形の変化によるニ段階の応答を示すことを発見したと発表した。金沢大学との共同研究による成果だ。
柔粘性結晶は、固体と同じく分子の重心位置は秩序を持つが、液体のように分子の向きが無秩序で自由に回転運動できる。研究グループは、1つの素子で多くの状態を区別する多値メモリの材料として、入手しやすく単純な構造を持つ有機分子のスクシノニトリル(SN)の柔粘性結晶相に着目した。
炭素と水素、窒素原子から構成されるSNの柔粘性結晶相に外部から電圧を加え、電気的な応答を測定したところ、加えた電圧によって電気的な分極の大きさが異なるヒステリシス現象を観測した。ヒステリシスは過去の履歴に依存して変化する現象のことで、加えた電圧の履歴を物質が記憶していることが示唆され、メモリ機能への応用が期待される。
また、このヒステリシスは、電場(E)の変化に応じて分極(P)が二段階に変化する二重P-Eヒステリシスループの形をしていた。電場の強さに応じて分子全体の向き(配向)がそろうだけでなく、分子の形(配座)も一部が折れ曲がった形と真っすぐな形という2つの形に変化した。こうした変化が、二重の電気応答を生み出すことが分かった。
電気的な刺激に対して、「分子の向きを変える」「分子の形を変える」という2つのスイッチが段階的に応答する二重P-Eヒステリシスを活用することで、複数の状態を区別できる可能性がある。従来の記憶素子よりも多くの情報を扱える、多値メモリへの応用が期待される。
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