AIとの共創がもたらすパラダイムシフト Autodeskの「Project Bernini」が示す未来メカ設計インタビュー(3/3 ページ)

» 2025年06月05日 07時00分 公開
[八木沢篤MONOist]
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エンジニアリングプロセス全体をカバーするベルニーニ

――AU2024では、手描きのスケッチから3Dモデルを自動生成するデモが注目を集めましたが、その後の進化について教えてください。

ライヒネーダー氏 AU2024で披露したデモでは、手描きのスケッチやプロンプトを基にAIがある程度の3Dモデルを自動生成する技術を紹介した。あの時点では、「おおよその形状」を3Dモデルとして生成する程度にとどまっていたが、そこからさらに進化を遂げている。

 現在、エンジニアリングで使用できる精度と構造を備えた3Dモデルの生成が可能になっている。例えば、「これは穴です」「これはフィレットです」「これはねじ山です」といった具合に、AIが各要素を明確に識別し、意味付け(定義)した上でモデル化できるようになっている。単なるサーフェスモデルではなく、部品としての機能を有した構造的なモデリングが実現しつつあるのだ。

 また、製造工程における応用にも取り組んでいる。具体的には、製品の組み立て作業をAIが学習/支援するアプローチだ。通常であれば、人間が「この部品をはめて、次にこれを取り付けて……」と順序を考えて作業するか、あるいはロボットに指示する場合はプログラムを記述し、ティーチングを行う必要がある。

MONOist編集部の取材に応じるライヒネーダー氏 MONOist編集部の取材に応じるライヒネーダー氏

 これに対し、われわれは、AI自身に“最終形を見せるだけ”で組み立て方法を学ばせるという方法をとっている。AIは完成モデル(アセンブリモデル)を見て、各部品がどこにあり、どのように組み立てられているかを判断し、プログラミングなしでロボットに指示を出すことができる。つまり、これまでのように人が逐一教えるのではなく、製品を見せるだけでロボットが組み立て方を「学習して実行する」のだ。

 ベルニーニでは、「スケッチを意味のある3Dモデルに変換する(Shape)」「その3Dモデルの動作や振る舞いを予測する(Perform)」「完成モデルを基に組み立て方を学ぶ(Make)」といった形で、設計から製造までのエンドツーエンドのエンジニアリングプロセス全体をカバーすることを目指しており、既にその一部が現実のものとなりつつある。

AIは“代替”ではなく、エンジニアの能力を拡張する“パートナー”

――エンジニアとAIの共創が進むことで、人間の役割や働き方は今後どのように変化していくとお考えですか?

ライヒネーダー氏 われわれの見立てでは、エンジニアの仕事はこれから劇的に変わっていくと考えている。AIの進化により、従来は人が手で行っていた作業の多くをAIが支援、または代行できるようになる。エンジニアはAIにプロンプトを与え、結果を見てそれを判断/評価し、ブラッシュアップしていくことで、より創造的な業務に集中できるようになるだろう。

 さらに、コンピュータのインタフェースそのものも変わっていくと考えている。現在はキーボードやマウスを使って操作するのが一般的だが、それが必ずしも最適とは言い切れない。将来的には、音声やジェスチャーなどを通じた操作が主流になるかもしれない。

 例えば、「このコンポーネントを右に100mm移動して」「残りの部品を全て重ねて」といった指示を音声で出すだけで、AIが即座にその内容を理解し、操作を実行してくれる世界が訪れる可能性がある。さらには、「この設計に必要なボルトとナットを全て追加して」と伝えれば、AIが自動的にそれを実行してくれる。そんな使い方が当たり前になっていくかもしれない。

 このような変化によって、エンジニアはこれまで手作業に費やしていた時間を、より本質的な業務――すなわち創造的なアイデアの検討や、設計の最適化といった知的価値の高い作業に集中できるようになる。

 さらに、近い将来、エンジニアが「この製品の問題点を教えて」とAIに聞くと、製造上の問題や強度不足、破損リスクなどを提示してくれるようにもなるだろう。そうなれば、エンジニアは「どうすればそれを解決できるか?」という創造的な判断と改善に注力できる。

 重要なのは、「AIはエンジニアの代わりではなく、エンジニアの能力を拡張する“パートナー”である」ということだ。限られた時間で、より多くの価値を生み出すための支援者として、AIは今後の製造業において不可欠な存在になっていくだろう。

 われわれはそうした未来を見据えており、実際の製品データやモデルを学習させることで、実用的なエンジニアリングモデルを生成でき、性能や振る舞いを瞬時に予測し、さらには製造工程の検討までを一貫して支援できるようなAIの実現を目指している。

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