ホンダ 取締役 代表執行役社長の三部敏宏氏は、2025年度連結業績の見通しについて「各国の関税政策が事業に与える影響は非常に大きく、足元で頻繁に見直されているため見通しの策定は難しい状況にある。今回は現時点で見積もりが可能な各項目の12カ月通期での影響と、それに対する挽回策も反映し、ミニマムレベルとして営業利益5000億円、当期利益2500億円とした」と説明する。
ホンダは日本から米国への四輪車の輸出をほとんど行っていないため、日本と米国間の相互関税の影響はあまり大きくはないものの、USMCA(米国・メキシコ・カナダ協定)を前提にカナダとメキシコから四輪車の完成車や部品、原材料を米国に輸入している。しかし、トランプ政権では、カナダとメキシコから四輪完成車や四輪部品を輸入する場合に、原産地規則を満たす米国製四輪部品のみを控除した上で25%の追加関税を適用するようになっている。このためホンダでは、四輪完成車で3000億円、四輪部品と原材料で2200億円のマイナス影響を想定している。また、カナダとメキシコ以外から米国に輸入している二輪車とパワープロダクツでも1300億円のマイナス影響が発生するという。これらの合計が関税影響の6500億円となる。
三部氏は「USMCAに関する原産地規則の証明がまだ不十分であるため、現時点では基本的に25%の追加関税がかかる前提で関税影響を算定している。これをボトムとして、四輪部品での原産地規則の証明を精査していくことで関税回避できるものがかなり出てくるのではないか」と見込む。関税への対策が進めば、2025年度連結業績見通しの営業利益5000億円をさらに上積みすることも可能になる。また、部品を含めた四輪車生産の体制も見直す。現在日本国内で生産している「シビック」の5ドアHEVモデルを2025年夏に米国のインディアナ工場へ、カナダで生産している「CR-V」も米国のイーストリバティ工場へ移管するなどの事例を挙げた。
なお、各国間での交渉によって日々状況が変化していることもあり、多くの日本企業が関税影響を2025年度連結業績見通しに入れ込んでいないのに対し、今回ホンダは年間でワーストケースの関税影響を業績見通しに盛り込んだ。ホンダ 取締役 執行役常務 CFOの藤村英司氏は「税法の解釈自体が非常に難しい中でも、今回年間でこれくらいの影響があるという見通しを外部に発信すべきと考えた。これによって、社内やサプライヤーとともに対策を立てやすくなるし、政府当局にもさまざまなお願いをしやすくなる」と述べる。
ホンダは2021年4月の三部氏の社長就任時に、2040年に四輪車に占めるEVとFCV(燃料電池車)の販売比率をグローバルで100%とする目標を掲げる電動化戦略を発表した。2024年4月には、ホンダの主要市場である北米でEVの包括的バリューチェーンを構築するため、カナダで総額150億カナダドルの投資を行うプロジェクトを発表している。
しかし今回の会見では、北米でのEV市場成長が当初想定以上に鈍化していることから、カナダでの大型投資を延期することを明らかにした。三部氏は「電動化戦略は当初の想定より後ろにずらすことになるだろう。一方、北米市場においてHEVの商品力が高く今後は大きく増産していく。2025〜2030年はHEVで事業を拡大しつつ、カーボンニュートラル対応で必須となるEVへの仕込みを行う余力も作っていきたい」と語る。
また、トランプ政権への移行で米国における自動車の厳しい環境規制が緩まっており、当初の想定通りにEVを販売する必要性がなくなっている。「北米市場におけるEV化は5年程度遅れるのではないか。もちろん、『0シリーズ』など開発中のEVは計画通りに進めるが量的には少し落とすことになるだろう」(三部氏)としている。
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